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自宅に帰ると雪絵とシロが玄関先までお出迎えしに来てくれた。 「おかえりなさい」 「おかえりだワン」 二人に迎え入れられる。 「シロ、朗報だ」 「なんだワン」 スーツを脱ぎながら、昼間かかってきた電話の内容を伝えた。 「凄いワン。もう見つけちゃうなんてやっぱりあの人に頼んで間違いなかったワン。今から行くんだワン」 バカを言うな。俺は仕事で疲れている。今日だって数少ない田西の顧客のところに出向いて話をしてきた。世間話を中心になにかお困り事がないのか引き出すのが目的だ。まずは先方のお困り事に対する解決方法を親身になって考える。そうすることで信頼感が生まれてくるはずだ。 「今日は行かないよ。探偵事務所だってもうやってない」 シロは残念そうな顔をしたが、今度の休みに行く約束をしていると伝えると機嫌はすぐに直った。 純平はお風呂に浸かりながら今日の仕事を振り返る。 田西の数少ない取引先に二人で出向いた。久ぶりに顔を出したようで、初めは担当の田西だと気づかれなかった。「はじめまして」と挨拶をして名刺を渡したがあんまりいい反応ではなかった。田西は「お久しぶりです」と挨拶したっきり無言で立っている。自分の取引先だろ、やり取りしろよ、と思ったが何も言わない田西に我慢できず、純平は世間話から始めた。 初めは警戒心が全面に出ていたが次第に話が盛り上がっていった。先方の社長の読書が気分転換だと聞くと、純平自身も本をこよなく愛することを伝えるとさらに話は盛り上がった。好きなジャンルは違えど、大きな枠で言うと同じ趣味を持つもの同士、話が盛り上がらないはずがない。 盛り上がる二人をよそに田西はボーっとつったって、話に入って来ようとはしない。確かに本のことをあまり知らないで話に首を突っ込まれるよりも、ここは純平に任せておいた方がいい。 あそこの社長はファンタジーよりもホラー系が好きと言っていた。おすすめされた作家さんは名前を聞いたことなかったが、調べるとホラー作品の巨匠であった。帰り道古本屋によっておすすめされた「独白するユニバーサル横メルカトル」を購入してきた。これを読んで感想を伝えに行くていで、また話をしに行こうと思っている。おすすめしたものを実際購入して読んだと知ればきっと喜んでくれるはずだ。 YouTubeやSNSで営業マンの勉強をしたかいがあった。 未来の予定が埋まっていくと仕事をしている気がしてくる。その中にシロの件もある。そうそうに片付けて仕事に専念したい。 純平はお尻をゆっくりと滑らせた。湯槽から出ていた肩、首をお湯に潜らせ、そのまま鼻までつけ思いっきり息を吐き出し大きな泡を立てた。
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