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しばらくすると再び車が横付けされ、中から先程とは違うケバい女性が出てきた。サイドミラーで顔を確認する。ヒールをカツカツ鳴らし、103号室に向かった。 「凄いワン。たろうちゃは沢山の彼女がいるんだワン」 シロのシッポは忙しなく左右に動いている。 ノックされたたろうちゃは再び顔を出した。少し悩んだ末その女性を中に招き入れた。 「たろうちゃ凄いワン。彼女を選べるなんてさすがたろうちゃだワン」 シロは知らない方がいいだろう。大人の世界ではお金を払うと着飾った女性が自宅を尋ねて来てくれるのだ。タイプじゃなければ交換できる。その魔法の言葉こそ「チェンジ」だ。残念ながらあの女性も先程の女性もたろうちゃの彼女ではない。 それとは別に気になることがある。 「なあ、シロ」 興奮して体温が上がっているようで、ベロを出し激しく呼吸をしている。視線を103号室から純平に向けた。 「こんなに近くにいて匂いでわからなかったんか?お前イヌだろ」 純平の言わんとしていることを察知したのか、まだ眼窩に残っている方の目を大きく見開いた。 「ボクはイヌだワン。匂いは感じてたけど思い出から来る妄想な気がしてたワン。だから気づかなかったんだワン」 そうすると、前回来た時にたろうちゃの匂いに気づいていた。それを現実と受け止め匂いを辿れば、このアパートにたどり着けていたはずだ。ということは、探偵に頼まなくてもたろうちゃに出会えた。そうなると、探偵に支払ったお金は必要なかった。思いを巡らせていると腹が立って仕方なかった。本来支払わなくてもいいお金を払った。しかも安くない金額だ。そもそも、なぜこんなにイヌのために時間と労力をかけお金を支払わなけれいけなかったのか。考えれば考えるほどイライラしてくる。 「おい!イヌ!」 「イヌじゃないワン。シロだワン」 雪絵が驚いたような表情で純平に視線を向ける。 「お前の鼻を頼りに行動すれば、俺はあの探偵事務所に金を払わなくて良かった。そうじゃないのか?」 シロはキョトンとしていた。まるで言葉の意味がわからないようだ。 「確かにそれはあるかもしれないけど、でもたろうちゃにこうやって再会できたらそれでいいんじゃないかと思うワン」 「ホントその通りよ。大きく成長したたろうちゃに出会えてシロはホントに嬉しそうね」 いやいやいや!そうじゃない。俺が言いたいのはそこではない。やんわりと話を変えさせられてるが、イヌ!お前の鼻を頼れば無駄な出費はなかったんじゃないかと話している。 良かったわね、としきりにシロを撫でる雪絵。それに伴い、色んなものがプルプルと揺れている。 解決したならいいとすれば水をささないでいられる。 純平は大きなため息を一つ吐いた。 あのシロがこれで心置きなく成仏できるなら安いものかと思えた。
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