幽霊屋敷

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幽霊屋敷

会社の最寄り駅から電車で七駅進みバスに乗りかえ随分経つ。予定よりだいぶ遠くに来た。都会とはいえ、この辺りは小さめなマンションがあり、大きなマンションは見当たらない。年期の入った一軒家がちらほら車窓を駆け抜けていく。これだけバスに乗っていれば別の駅があるだろうと思ったがそれはなかった。代わりにフロントガラスの奥の方に、森だか林のようなものが目に入る。 まさかとは思いながら志田部長から渡された紙に視線を落とす。 駅から自宅の最寄りのバス停までの時間は書かれていない。バス停の名前だけが記されている。 さらにしばらく走ると目的地のアナウンスが流れ、「終点、終点です」と告げた。まさかとは思っていたがやはり終点だったか。 このバス会社のバスプールはこの辺りにあるのだろうか。都心部に沢山のバスを待機させる大きな場所を確保するのは難しいだろう。この辺りなら地価が安いと思える。 純平はバスを降りた。都会にもこんなに静かなところがあるのだろうかと訝しむくらいだった。地元ほどとは言わないが、似たような感じの雰囲気が漂ってる。コンビニは少し戻ればあった。薬局やスーパーはコンビニよりもう少し戻らなくてはいけない。 逆にもう少し進んだら、鬱蒼と木が生い茂る林に繋がっている。 随分なところに来てしまったと思った。いくら純平が卒業した大学が三流以下だとしてもこれはひどい。文句のひとつも言ってやりたいところだが、有能な人材に費用を費やすのは社会では納得せざるを得ない。入社前の能力は大学名で決まると言っても過言では無い。入社してからは実力がものをいう。実家を逃げ出すように出てきた純平に、帰るという選択肢はない。帰ったら親に捕まって丸坊主にされる。少しこの会社にいて、次が決まればそっちに行ったっていい。ここの待遇よりマシだろう。 スマホの地図アプリに入力してあった住所を見た。バス停からはさほど遠くないようだ。スマホのガイドを頼りに、車が通れない細い道を進む。五分も経たずに目的地周辺と言われた。 バスできた通りから少し中に入ったとはいえ、目の前に三階建てのマンションに隠れてるとはいえ、ここはなんなんだ。 庭と呼ぶにはあまりには狭い、車一台分くらいの玄関前のスペース。そもそも車が通れる道ではないのだから車を置くスペースではない。 元は赤かったのだろうか。茶色とグレーがかった壁の色をしていた。瓦はところどころ抜け落ち、全体的にくすんだ色彩の平屋の家は、どんよりとした重い空気をまとい、見るからに怪しかった。
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