戦士

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純平は以前に文古社長から紹介して貰った先峰(さきみね)社長の元にいた。文古社長と同じように本が大好きな社長で、紹介されたその日に意気投合した。50代とは思えないほど体つきがよく活発なイメージだ。 「南田くんに話がある」 そんなことを言われた日には飛んで行くしかない。例えそれが仕事に直結することじゃなくても人と人との繋がりは大事だ。営業マンたるもの、それを億劫がっていては仕事が成り立たない。 先鋒社長の社長室は質素な感じだった。建設関係の仕事を営んでいるが、自分が仕事で使う部屋などどうでもいいという。仕事と女が大好きで、自分のことには興味が無いというのだ。 スチールテーブルに用意されているパイプ椅子に座った社長が口を開いた。 「忙しいのに悪いね。南田くんに来てもらったのは他でもない。今度プレゼン大会を開催するんだ」 「はぁ、プレゼン大会ですか」 「そうなんだ」 プレゼン大会の概要を語ってくれた。 決められたテーマと予算に沿って自分の思い描くプロジェクトをプレゼンする。その中から一番良かったものを選出する。簡単に言うとただそれだけだ。 「それでね、南田くんにはこのプレゼン大会に参加して欲しいと思ってるんだよ」 ええー!意味がわからない。 プレゼンに参加だと!よくわからないけど、なんだかチャンスっぽいので参加したいが、なにをどのようにしたらいいのかわからない。自分の持ちうる知識では圧倒的に足りないだろう。そもそもそんなに経験のない自分になぜこのように話をしてくれているのだろう。 「社長。質問してもいいですか。私がプレゼン大会に参加してどうにかなるのですか」 社長はハッとした表情を浮かべた。 「はっはっはっ。そうだったそうだった。南田くんには説明が必要だったね」 「はあ」 先鋒社長の話によると、社長は他の会社の仲良い社長達と合同で、定期的にプレゼン大会を開催しているらしい。各社長の従業員達ももちろん参加をするのだが、取り引き先や知り合いなどに声をかけている。招待制の公募と言ったらわかりやすいかもしれない。多い時には二十社ほど集まったことがあるという。もちろん集まったその中から一位を選ぶのだが、社長達の心がくすぐられるものがなく一度だけ「一位なし」にしたことがあるそうだ。プレゼン内容が気に入った社長がいればその権利を買い取る、又は契約する。優秀な人材がいれば各社欲しくなるだろうが、さすがに引き抜きはご法度だ。 「しかし社長、なんで私なんかにこんな素敵なお話をいただけるのですか」 「正直に話すが、声を変掛けているのはもちろん南田くんだけではない。営業歴が二十年を超えているような大ベテランから、いわゆる大手に務める営業マンまで声をかけている。現場でも頭の切れるやつがいるから、うちの社内からも1名出す予定だ。こちらもビジネスでやる以上、よりいいものが欲しいからね」 確かに社長の話は理解出来た。そんな敏腕営業マン達がしのぎを削って争うのだ。並大抵のプレゼンでは勝てない。 「南田くんのような、将来がある若い子にも声をかけさせて貰ってるんだよ。若手の教育も兼ねてね。プレゼンは場数を踏まないと成長できない。場数を踏んだって反省しないバカは時間だけが無駄に過ぎていって腐っていくだけだ。長年の経験から南田くんが大きく成長してくれるような気がするんだよ。どうだい、チャレンジしてみないかい」
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