戦士

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最近は考えることが増えてきた。もちろん仕事人としては好ましいことなのかもしれない。頭が休めることがないので、ときより夢にまで仕事が出てくる。仕事だけならまだしもあいつらも出てくる。夢の中でも現実のあの奇妙な生活が営まれている。夢の中くらい夢見させてくれてもいいのにと思うが、現実はそんなに甘くないらしい。 田西に先日の先鋒社長からの内容を話した。 「正直、俺にはそんなプレゼンに勝てるようなスキルは持ってない」と突っぱねられた。ここのところようやく仕事を始めたと言っても過言ではない人に、もちろんそんな期待はしていない。だからこその相談だったのだ。他の先輩で教えてくれそうな人に取り次いでくれたりないだろうかと思う。 「南田くん、調子はどうだい」 志田部長がトイレの帰り際に声をかけた。濡れた手で肩を叩かれると、人の服で手を拭いているようにしか感じられない。 部長には一週間に一回声をかけてもらえればいいほうだ。毎日挨拶は交わすが会話はない。他の同期達には積極的に話しかけるのだが、今日みたいに思い出したようにたまに声がかかる。 「はい、ぼちぼちです」 その言葉を聞き部長は眉間にシワを寄せた。 「君みたいな新人くんがぼちぼちじゃ困るんだよ。元気ハツラツとして頑張ってます、くらいじゃないと。この仕事結果が全てだからね。せいぜい会社の足を引っ張らないようにしてくれたまえ」 手を裏返し甲側で横にいる田西の肩を叩きながら、「キミもせいぜい頑張りたまえ」と捨て台詞を残して去っていった。 先週同じように声をかけられた時に「はい、頑張ってます」と返事をしたら、「頑張ってる人は自分で頑張ってるなんて言わないんだよ。頑張ることが当たり前だからね。頑張ってるかどうかは周りが決めることで本人が決めることじゃない。そんなこと言ってる時点で頑張ってない証拠だよ」と言われた。今日は違う回答で試みたが不正解だったようだ。そもそも正解があるのだろうか。 それともう一つ。肩を叩く時に手の甲側で叩く必要はない。部長は間違いなく我々の服で手を拭いていた。純平の疑惑は確信に変わった。
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