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「あら純平さんお気づきになられました」
「お前なぁ、お気づきになられました?じゃないだろ。違和感しかない」
スーツを脱ぎ部屋着に着替える。
「紹介するわね。こちらの馬の頭を持ったのが馬人。で、こっちの魚の頭を持ったのが魚人」
馬人と紹介された馬の頭に人間の足が生えている奇妙な生き物。馬の胴体から下がなくなり首だけ取り残され、そこから人間の足が生えたようだった。なんとも間抜けな容姿をしている。
魚人と紹介された魚のお頭から人間の足が生えた生き物。魚の胸から尾びれまでがなくなり、そこから人間の足が生えたようだった。魚という生物の構造上頭は天井を向いており、足の生え方は横並びなので前後と左右が混在している。頭の両サイドについている目をしきりに動かしていた。
純平はもう驚くことすらなかった。雪絵がこの家にいる限り様々なことがこれからも起こるだろう。どうせまたあっちの世界で見つけた可哀想な子達と言われる。
二人(?)は「はじめまして」と挨拶をした。
「あっちの世界で雪絵さんと出会って話をしていたら、いいとこがあるよって言われて誘われたんだウマ。これからよろしくお願いしますウマ」
魚人も馬人に続く。
「俺もそうですウオ。これからよろしくお願いしますウオ」
ウマとかウオとかうぜーうぜーうぜー!そもそもここは俺の家だ。お前たちの寄り合い所じゃない。勝手に呼んでくるな。
「馬人も魚人も可哀想なの」
はいはい、始まった。お決まりのワード。あんたにかかればみんな可哀想な子になっちゃうんじゃないの?まあしょうがないから話聞こうじゃないか。
「純平さんはケンタウロスってご存知ですか?」
「知ってるよ。下半身が馬で上半身が人間の空想上の生き物だろ」
雪絵と馬人が頷く。二頭身の馬人が頷くと足の付け根から折れ曲がるので、ギャグのように滑稽だ。
「そのケンタウロスじゃない方が馬人なんです」
ん?どういうことだ?ケンタウロスじゃない方というのがいまいちピンと来ない。馬人を眺めながら携帯でケンタウロスを検索して見比べた。なるほどそういうことか。ケンタウロスに使用された部位を除き、残された部位をくっつけたのが馬人なのだ。そうすると……
純平は隣にいる魚人に視線を移す。魚のお頭に人間の足。逆算してみる。
(魚-お頭=魚の胸から下)+(人間-足=人間の上半身)。この方程式を解いてみる。答えは一つ。人魚だ。魚人は人魚の残りということだろう。さっき俺と言っていたが、人魚の下半身の元はオスだったんだ。知らなかった。
「純平さん、ご理解いただけましたか」
少しの間が空き納得した表情を浮かべたからだろう。雪絵は純平が理解したとわかったようだ。
「こちらの魚人さんは人魚じゃない方だと?」
魚人は目をしばたかせ、雪絵は頷いた。
魚人は正解したのが嬉しかったのか、二頭身の体をしきりに動かし、上半身を左右に揺らした。足の向きからすると前後になるのかもしれないが、頭の向きで考えると左右となる。魚という生物構造上左右に揺れるしかないのはわかるが、犬のシッポを連想させられる。
「可哀想じゃないですか?自分の片割れはあんなに脚光を浴びてるのに、残された自分たらこんな扱い。見ていられなかったんです」
雪絵の言いたいことはわからないでもない。ケンタウロスなんかあんなに凛々しくカッコイイ。人魚は艶やかで美しい。その残りがこれ。改めて馬人と魚人をみたがやはりマヌケな姿が滑稽でならない。
「来てそうそう悪いけどあんたたちの願いは叶えられそうにないわ」
純平はちらりと石詰をみた。新しい仲間に刺激を受けたのか、少し楽しそうな表情をしていたが、突然向けられた視線に石詰は驚きすぐさまその表情が変化が生じた。
「なんでしょうか?」
突然の純平からの視線に戸惑っている様子だ。
時を超えて生存確認をしなければいけない状況に、空想上の生物たちの尻拭いをする。そんなの無理に決まっている。こいつらは俺のことをなんだと思っているのだ。俺はなんでも屋じゃない。
「ところでさ、その言葉の最後にウマとかウオとかつけるのなんなの」
「これは方言みたいなものだウマ」
方言か。方言とは違う気がしたが少しだけ納得した純平がいた。
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