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会社のデスクで仕事をしていると総統括の芝浦が近づいてきた。細めのスーツをビシッと着こなし、絨毯の敷いてあるフロアでもヒールの音を微かに立てていた。
「南田くん、ちょっといいかしら」
純平は名指しされた。芝浦は横のデスクにいる田西の肩を叩き、「ちょっとイス貸してくれる」と言うと、田西は背筋をピンと伸ばし無言のまま立ち上がり席を譲った。
「トイレでも行って少し休憩してらっしゃい」
「はっ、はいっ!」
傍から見ていても田西の緊張感は伝わってくる。それほどまでに緊張する相手ということだ。田西のイスに芝浦が座った。
「南田くん、なんか大きなチャンス貰えたって話聞いたんだけどホント?」
先鋒社長から貰ったプレゼン大会の話のことだとすぐにわかった。田西が芝浦に継いでくれたのだろうか。しかし先程のような状況では話すことすらままならないだろうと思う。田西じゃないとするといったい誰だろうか。
「先鋒社長から連絡が入ったの。おたくの南田くんにプレゼン大会のお誘いをしました、ってね」
田西のデスクに転がっていたポールペンをクルクル回す。視線はこちらに向いていない。
そういうことか。先鋒社長自身がうちの会社に連絡したのだ。それもそのはず。こんな新人に対してプレゼンをさせてくれるのだ。会社が知らないでいいはずがない。これで採用されれば大きな収益となるのは間違いない。会社に大きな利益を生み出せる。
「はい、先鋒社長からお誘いをいただきました」
パキッ!何かが折れる音がした。見ると芝浦が手に持っていた田西お気に入りのボールペンが壊れていた。
「なんでそんな大事なこと上に報告しないの。千載一遇のチャンスなのよ。わかってる?」
向けられた視線は冷酷で睨みつけられていた。以前、田西が芝浦は怖いと恐れおののいていたのを思い出す。今まで関わりを持ってこなかったから気が付かなかったが、田西の言葉に嘘はなかった。
「申し訳ありません。一応田西さんには相談させて貰ったのですが……」
「なに?」
語尾が上がりながら語気の強い「なに?」は威圧感しかなかった。先程も耳にした何かが壊れる音がした。芝浦が手に持っていたボールペンがより細かくなっていた。
「あいつ……」
芝浦は席を離れている田西がいる方に視線を向ける。見るというよりもガンつけるという表現が正しい気がする。勢いよく立ち上がると田西の歩いていった方に向かった。
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