9人が本棚に入れています
本棚に追加
/37ページ
次の日田西は出社しなかった。出社せずに直接どこかに出かけたのだろうか。出かけているのであれば帰社時間や行き先を記入してあるはずだ。ホワイトボードにもなにも書いていない。体調不良だろうか。欠勤の連絡も入っていない。
田西のデスクの上には昨日砕かれたポールペンの欠片が落ちていた。
視界に人影が入った。芝浦だ。
「プレゼン大会の資料見せてくれる?」
椅子に座っている純平からすれば立っている芝浦を見上げる形になる。それだとしても斜め上に首を傾け見下ろされると睨まれているとしか感じられない。
手を差し出された。データをちょうだいと言っている。
純平はパソコンを操作し、作りかけのプレゼン用の資料を広げた。椅子に座ろうとしてお尻でどつかれたので席を譲る。入れ替えるように芝浦が座った。
まだまだ作成初段階のものだ。それでも自分の中の持っている全ての知識をふんだんに使って作成したのは間違いない。現段階ではこれ以上のものを作る技量は無い。
芝浦は資料にざっと目を通すとマウスを操作し始め、メニューから削除を選択し押した。
「なっ!」
思わず声が出た。
「ゴミね」
芝浦の口から一言だけ言い放たれた。
「酷いじゃないですか」
「私ね、先鋒社長のところにお邪魔してきたの」
なにを言い出すのだろうか。会話が成り立たっていない。
「うちにはもっと優秀な人材が沢山います。そちらにチャンスをいただけないですか?ってね」
どう答えていいかわからず純平はただ黙っていた。
「そしたらなんて返事が返ってきたと思う?うちに来てくれてる、わたしとの接点があるのはその南田くんだよ。あなたの部下にどれだけ優秀な人がいるかは存じ上げません。わたしと接点のある優秀な人材に声をかけさせてもらっているまでです。って言われたの」
「はあ」
「迂闊だったわ。あんな小さな会社がこんなことしてるなんてね。知ってたら田西なんかに担当させたりしなかったのに」
この人のことを一瞬で嫌いになった。先鋒社長は色んな思いを持って会社経営しているはずだ。それなのにその規模だけで人を判断するような発言。損得勘定だけで物ごとを見定める価値観には賛成できない。なによりここまで可愛がってくれる先鋒社長のことや田西のことを悪く言うのが腹立たしかった。
最初のコメントを投稿しよう!