幽霊屋敷

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口から魂が抜けた気がして、玄関前で呆けてしまった。 本当にここで合ってるのかと何度も確かめたが間違いない。ここだ。 志田部長が渡した住所が間違ってたんだ。そう思い、渡された鍵を取り出す。玄関の鍵穴に差し込んで回らなければここは間違っている。そう、間違っているのだ。 少し手が汗ばんでいた。鍵を差し込みたいのに差し込みたくない。何度も鍵穴に鍵を近づけては離した。あと一歩の勇気が出ない。 空が段々と暗くなってきた。間違っているなら早く本当の住まいを探しに行かなければいけない。土地勘もない場所で、渡された住所は間違えていたとなればさまようこと間違いない。最悪今日はホテルに泊まればいい。いやまてよ、この辺りにホテルはあるのだろうか。バスからは見た記憶が無い。もっとも、探そうとしていないので、見ていたとしてもホテルという認識を脳がしていない。 緊張する時は深呼吸。これは本当に効果がある。純平の揺るがない考えだ。 深呼吸をして、鍵を鍵穴に差し込んだ。金属と金属がぶつかり擦れる感触が指に伝わってきた。そのまま奥まで差し込んだ。 同じ種類の鍵であれば鍵穴には入る。キーとシリンダーが違うものでは、入るが回らない。ゆっくりと鍵をひねる。ガチャりと言う音をたてて鍵が開いた。開いてしまった。 この家は間違いなくこれから純平が住む家だった。答え合わせが終わり大きなため息を吐き出すと、全身を包んでいた緊張が解け力が抜けた。 予定していたマンションとはわけが違う。何から何まで違う。しかしこんな外観とはいえ、きっと中はリフォームしてあって綺麗になっているんだ。ワンタッチでカーテンが開き、スマホで電気が付き、温水便座とシングルレバーの水道。追い炊き機能の付いたお風呂もあるはずだ。 純平は少しの期待を抱いて玄関を開けた。横にスライドする年期の入った扉は滑りが悪く少し引っかかった。それを力を入れて滑らせる。引っかかった部分をまたぐように何度か左右に動かすと、幾分か滑らかに滑るようになった。 玄関を入ると膝丈くらいの段差がある。実家でよく見た光景だ。靴を履くときとっても便利なのだが、登るのがめんどくさい。歳を取って膝が悪くなったら使い勝手が悪すぎる。 腰掛けて靴を脱ぐ。目に付いたスイッチを入れると電気がついた。 入ったすぐはキッチンになっていた。ダイニングキッチンとギリギリ呼べるくらいの小さな部屋。冷蔵庫と電子レンジが目に入った。シンクはステンレスで少しサビがついていた。レバーはシングルレバーだった。シンクの上に給湯器が設置されている。床に座って使う丸いテーブルがあった。
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