雪絵

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「良かった。目を覚まされたんですね」 女は胸下まで垂れ下がった頭を両手で持ち上げて、それをこちらに向けた。血色が全くなく青白い顔色は、決してこの世のものとは思えなかった。少し舌が出ている。 重そうな頭を億劫そうに持ち上げて女が言う。 純平は声を出すことも出来ない。ただ自分が置かれた状況が理解できず、恐怖に身を震わせた。 「そんなに怖がらないでください」 そんなの無理に決まってる。この状況で怖がるなと言うのはさすがに無理がある。 女はほんのり笑みを浮かべ続ける。 「久しぶりに人に会ったので少し脅かそうと思っただけです」 いやいやいや、ちょっと待ってくれ。この女は何を言っているんだ。理解が追いつかない。 「あっ!すいません。自己紹介がまだでしたね。私雪絵っていいます。白い雪の雪にピクチャーの絵」 ピクチャーってなんだよ。このタイミングでピクチャーは無いだろ。せめて似顔絵の絵とかじゃないのか。 雪絵と名乗った女はなおも続ける。 「私ここの前の住人です」 「???」 頭の中は?で覆われた。 この女の言っていることを鵜呑みにすると、以前住んでいたのが私で、今ここにいます。となる。出て行ってはなかったのか。まだ住んでいるという事なのか。確かに「以前」と言っていた。 純平の気持ちは次第に落ち着いてきた。正確には慣れてきたの方が適している。突飛な状況とはいえ、人間というものは何となく慣れるものなのだと勉強になった。 「私はそこで首を吊って死んだんです。だからこんなに首が伸びちゃって」 なんだか照れくさそうにする雪絵と名乗る女だが、純平の思考回路は未だに追いつかない。 ろくろっ首のように伸びた首の先にある人間の頭。最初こそ奇妙に思ったが、よくよく見ているとなんだか滑稽な光景に思えてきた。しかもその頭が重くて両手で持っていないといけないという。しかも手で向きを変えないといけない。漫画のような設定である。 青白い顔をした雪絵は不思議そうな表情をした顔をこちらに向けていた。
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