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「んで、なんで首吊りなんか?」
純平と雪絵は和室で座って向かい合っていた。
「お恥ずかしい話なんですが、婚約をしていた男性にフラれてしまて、立ち直れなくて首を吊りました」
ダラりと垂れ下がった首が重たいらしく、肘置き程度の小さなテーブルに雪絵は頭を乗せていた。純平は向かい合って話してはいるものの、視線を雪絵の顔に向けるため不思議な感覚がした。
「まぁ、たまに聞く内容ですね」
自殺する人の理由は数多くあると思うが、どことなく清楚感がある目の前のろくろっ首の雪絵が、金銭的に追い込まれたようには感じない。若くして自ら命を絶つ理由と言えば、男女間の問題がすぐに思い浮かぶ。
「正直後悔してまして」
青白い顔の眉間にシワを寄せた。
「それはなんで?」
純平は話を促す。
「あっちの世界に足を突っ込んでみて、男の人はあの人だけじゃないんだって改めて思ったんです」
あっちの世界といきなり言われると、犯罪の世界とか宗教の世界かと思ってしまうが、あの世だと言うことにすぐに気づけなかった。
「あっちの世界の事はちょっとわからないんですけど、男の人はごまんといますからね。もちろん女の人もですが」
「そうなんです。もっと早く気づければ良かったのですが、あの時はこの世の終わりだと思うほど落ち込んでいました」
恋は盲目。耳にしたことがある言葉。純平はまだその言葉を実感したことがない。しかしこのように自殺までしてしまう人がいると考えると、言葉には真実が含まれているのだろう。
「話は変わりますが、あなたは今こうして俺の前に出てきて、どうしようと言うんですか」
雪絵は目をぱちくりさせた。
「これも何かのご縁だと思うので、しばらくこちらに身を置かせて貰おうかと思います。まあ、元々私の家だったわけですからね」
ん?話がこじれてきたぞ。成仏するために何かをして欲しいんじゃないのか?実家で父の所業を見様見真似ですれば何とかなるのか?
「成仏はしてくれないのですか?」
純平は単刀直入に聞いた。
雪絵はテーブルに置かれた顔に曖昧な表情を浮かべた。
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