その後

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修行をしていない純平には父のやってきたことを真似ることができない。しかし父には憑依というものがある。純平が修行してある程度一人前になるまで、父が純平に憑依することになった。 檀家さんには憑依していることは伝えずにお務めをすることにした。父そのものなので評判は悪くなかった。 あの家に住んでいたみんなはというと、丸ごと純平の実家に移り住むことになった。離れ離れになってしまうと寂しいということで、全員が引っ越した。 問題は雪絵だった。地縛霊の一瞬である雪絵は、文字通り地に縛られていた。しかし調べてみると、住民票のようなものを動かせば転居できることを知った。雪絵は早速転出届けを提出して、あの家から純平の実家に移動した。今や純平の実家に地縛(じばく)している。 本殿にだけは入らないようにした。父の力が弱くなったと言え、あそこは聖域になるので幽霊たちは近づかない方がいい。何かが起こってからでは遅い。 「純平ちゃんのお友達もたっくさん来てくれて賑やかだわぁー」 母は喜んでいた。 生前の父は目が悪かったが、死んでしまってからは視力が回復し白杖は必要なかった。快適だと言う。 狛犬の横で遊ぶ馬人と魚人。最初狛犬たちは嫌がっていたが、面白い奴らだとわかると、じゃれあっている姿を見かけるようになった。狛犬がトイレに行っているときは、代わりに馬人と魚人が台座に鎮座していた。その二人では用が足りないがまあいいだろう。 シロも狛犬達とよくじゃれあっていた。同じイヌの括りとして嬉しかったようだ。「お兄ちゃんが二人もできたワン」。甘えん坊のシロからすれば余程嬉しかったのだろう。狛犬がお務めを果たしている時も片時も離れずに傍にいた。馬人と魚人とも楽しそうに絡んでいた。 石詰は庭木の手入れに(いそ)しんだ。太めの枝を落としたときには喜んで、それを細工して色んな形の銃を作成した。作った銃でひと通り楽しんだあとは、祠の後ろに隠しているのを純平は知っていた。小枝で短剣を作成したりもしているようだった。 田西の生き霊はもうでてこなくてもいいのに、相変わらず顔を出す。純平から引き継いだ仕事でアドバイスを欲しいときによく出没する。もし純平だったらという形でアドバイスをすると喜んで消えていった。もう自分でできるはずなんだから自信を持ってやればいいのにと思う。なんだかんだで上手く仕事をやっているようだ。 雪絵は両親に気に入られた。台所にも立ち、まるで純平の妻のように思えた。いや違う。純平が大黒柱であって雪絵はそれをサポートする人。そこに沢山の仲間達が紛れ込んでいる感覚だ。 水子ちゃんは二人の子供役。とっても思いやりのある子なので手がかからない。実の親である最上と芝浦に対しても、なんの憎悪も抱いていなかった。両親が健康ならそれでいい。またどこかでぼきゅの代わりになる子が生まれたらそれでいいと言っていた。 神様はとても重要な役割を担うことになった。『本物の神様が見られるお寺』として雑誌に売り込んだ。瞬く間に有名になり観光地化した。絶対に喋るなというルールの元、午前と午後の二回神様のお披露目がある。その日の神様の気分で頭の上のライトの強さを選んでいいと言ってある。そうしないと「明るさの調節ができるのがいいんじゃよ」といいながら、カチカチいじくってしまう可能性がある。神様の威厳がなくなってしまう。もちろん喋らせても威厳がなくなるだろう。
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