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出社
昨日はとんでもなく濃厚な日だった。オリエンテーションに行ったと思ったら、手違いで社宅がなく、別のを用意したからとそちらに行ったら、そこで住んでいたという雪絵という女性の幽霊が出た。しばらく話してみたが害がなさそうなので、しばらく様子を見ることにした。
そして今日はその雪絵に見送られ「行ってきます」と家を出てきた。
既に今の状況を受け入れている自分がいた。一人暮らしのはずが幽霊の女性と同居。はたから聞いたらなんの事だか理解して貰えないだろう。純平自身も夢の中の出来事のように感じている。
「おはようございます」
デスクでパソコンを叩く志田部長に近づき挨拶をした。
志田部長は「おはよう」と返事を返しながらこちらに顔を向けた。そこにいたのが純平だと気づき「ああ、南田くんか、おはよう。昨日は申し訳なかったね」
とりあえず誤ってはいるが、挨拶ついでの簡単に付け加えたくらいの感じに聞こえ気分は良くない。しかし新入社員のぶんざいで、そんなことをおくびにも出せない。
「新しい社宅が見つかるまでちょっとだけ我慢しててね」
志田部長は片手を顔の前に持っていき、ごめんと手を動かした。
その後、純平は田西という男性の先輩に付くように言われた。全く覇気がなく漫画でよくいる目が点の少し間の抜けたアホ面をしたような容姿をしていた。きっと能ある鷹はなんとやらなのだと思った。
他の同期たちも各々先輩が付いた。
その中で一際目立つ女性がいた。スラットした細身に顎ラインの前下がりボブがとても似合っていた。その女性を志田部長は紹介した。
「芝浦くんだ。君たちの総統括をする。基本的には今付いた直属の先輩に仕事を教わって貰うんだが、成長によってはできそうな案件を君たちや先輩方に仕事をふる」
芝浦と紹介された女性は「よろしくお願いします」と頭を下げた。
挨拶は一通り終わり、各自の席に戻った。
純平は田西の真横の席であるが外がよく見渡せる窓際だった。他のメンバーは中よりの、大型のプリンターやシュレッダー、見たことない機械がすぐに使えそうな場所だった。
それを見ていると横にいる田西の声が聞こえた。
「芝浦さんメッチャ怖いんだよ。俺なんか何回かしか話したことないけど、とにかく怖いんだ。近寄るのも恐ろしい」
独り言のようでもあるが、明らかに純平に伝えに来ている感じだ。しかしその視線は窓の外の景色に向けられていた。純平にはまだ真新しいが、田西には珍しいものでも無いはずだ。それでも田西はぼんやりと外を眺めていた。
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