絶対書いてやるもんか!!!

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「ハッ!じゃあこのゴミの山は何なんだよ!何回失敗したか、数えてみるか?!」 「それはどうだっていいだろ!?世界を救えだなんてアバウトでデカすぎでシリアスで身の丈に合わない重苦しい重大任務!!慎重になるに決まってるだろ!」  心が壊れた二人は、醜い言い争いをする。  かつてこいつにはもう頼らないと決めた私は、それをプレイヤーに伝えると少しだけ残念な顔をされた。あれから彼は「もう出ません!」とばかりにパジャマに着替え、自分の仕事の合間を縫って私を煽ってくる。  その一方、どうしても直接手伝わないと前に進まない私は、外に出る用の服を着ている。性格がプレイヤーと反対だったらいいのに、と何度思ったことだろうか。  それでも、何度も何度も書き直すたびに『プレイヤーの手を借りたい』という気持ちが増えていくのだが────絶ッッッ対に!嫌だね!!! 「俺なら早く終わらせられるのに、お前のその『怪奇なんちゃら』に出してくれないんだもんな!そりゃ時間がかかるってものさ!」 「お前に任せたらスプラッターになるだろ!依頼の条件は『世界の存続』だ!絶ッ対にお前に任せるもんか!」  私がプレイヤーに人差し指を向けると、プレイヤーは腕を組んでめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。 「はァ〜〜。お前、自分が手を貸す前提で手加減した内容を書いてるんだろ?お前のそんな根本から取れるプラモデルみたいな羽で、よくそんな自信が持てるな!」 「言ったな!?お前だって『世界売り』の名に相応しくない気持ち悪い羽してるじゃないか!」 「ンだと〜〜〜!?!?」 「や、やるか!?」  ……すぐ根本からポロっと取れるプラモデルみたいな天使の羽に、丸見えの筋肉みたいな膜から骨が飛び出てる気持ち悪い羽。両方事実なので、二人とも言い返せないのが本当に感じ悪い。  なので最終的には拳で語るみたいな流れになるのだが、確実に私がワンパンで沈む。言っただろう?こいつは『デウス・エクス・マキナ』。ただの『クロウ・エボニー(真っ黒いカラス)』である私と比べると、雲泥の差なのだ。  …………だが。 「………………はぁ………………。もういいよ。続き、やるからさ」  折れるのも、いつも私が先だ。戦闘を回避したいから──というのもある。  私は椅子に座り、新しい紙を引き出しから出した。 「おっ、なら俺の勝ちってことで良いんだな?じゃあ出してくれよ〜!今度こそ殺さないからさぁ〜!」  プレイヤーはまるで女のように腰をクネクネとさせている。め、目障りだ!! 「うるさい!お前正直言ってチートなんだよ!!いざという時に逆に役に立たないんだよ!!」 「えっ!俺のチカラ、認めてくれてるの!意外だな〜!」  プレイヤーは私の右横で目を丸くし、道化のように顔の側で両手のひらを広げる。 「うるさいうるさいうるさい!!早くどっか行け!部屋から出ろ!!」 「もうちょっと良いじゃん〜!もっと褒めてよ〜!ツンツンしてないでさ〜!」 「褒めてねぇよ!!このバカ!役立たず!!」  私はインク瓶を投げつけた。  ……が。  ──カチッ……。  気持ち悪い翼の先にある骨の指に遮られた。  まぁ当たるとは思っていなかったが、そんな涼しい顔で、しかも目の前でキャッチされると割とガチでヘコむ。 「…………………………」 「な、何だよ」  プレイヤーは真剣な目でこちらを見つめる。普段の彼なら手元で瓶だのペンだのをいじりながら話すのに、今はそんなこともしない。  私もつられて真剣な目で見つめ返した。 「…………。クロウ。お前、本気でお前一人でやるんだな?」  プレイヤーの声は、彼とは思えないほどに低かった。 「あぁ、やるよ。元からそのつもりだ。────私は、“キミ”の手は借りない。」  私はペンを置き、横向きに座り直してプレイヤーと向かい合った。そしてピシャリと言い切った。  見上げるようなカタチになったが、もし立っていたとしてもこのプレッシャーは変わらなかっただろう。  彼から放たれるのは、同じ『世界売り』としての珍しさのオーラではなく、『最終兵器』────『デウス・エクス・マキナ』の重圧だ。普通の生き物は、ひれ伏すか言葉ひとつひねり出すのも精一杯だろう。  『デウス・エクス・マキナ』が目の前にいて、そんな彼と話すことができる立場だというのに彼を利用しない私は、本当の本当に愚か者だと思う。  でも。だからこそ。  私は、自分の力で世界を救いたい──そう思ったんだ。 「…………………………。わかった」  プレイヤーはそっとインク瓶を机に戻す。 「もう煽らないし、手伝わない。これでいいな?」  彼の声は少し震えている。 「うん。それでいい」  私の膝の上の拳も、震えている。 「………………健闘を、祈る……」  ずっと裸足だったプレイヤーは、部屋の冷たさと感触を名残惜しそうにしながら歩いていく。  私はまた座り直し、インク瓶を元の位置に戻しながら唇を噛んだ。 「………………馬鹿なやつ。」  最後に聞こえた言葉は、何のことを言っていたのだろうか。
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