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結局一日待っても海里と連絡が取れなかった。夜の間ずっと返信を待っていたから寝不足で出勤の支度をして部屋を出る。階段を下りて集合ポストを見ると、封筒が入っているのが見えた。なんだろうと思いながら中身を見て、出てきた鍵に固まる。スマホを確認する。メッセージは未読のまま。
仕事が終わって帰宅しても誰もいない。海里がいない。真っ暗な玄関で立ち尽くす。こんなに簡単に終わってしまうんだ……。
なにが悪かったんだろう。なにが『ごめんね』なんだろう。俺はどうしたらいいんだろう。毎日、鳴らないスマホと置いて行かれた鍵を見つめる。
「こんなのヤり逃げじゃん」
そんなことをする男じゃない、それは俺が一番よくわかる。海里のなにも知らないけれど、でもわかる。優しくて図々しい、そんな海里が好き……で。
ああ、海里が好きなんだ。それに気づいた今、想い人はそばにいない。
せめて気持ちだけでも伝えたい。会社の帰りに海里の言っていた駅に行くようになった。駅しかわからないのに人を探すなんて無理に決まっている。でも、それでも会えたらそのときは「逃がすな」ということじゃないか。逃がしたくない、会えないなんて考えない。絶対に捕まえる。
海里がいつも俺の部屋に来る時間を考えると、俺の仕事が終わってからではすれ違うかもしれない。朝と夜、駅の前に立って海里を探した。幸い、駅の出口は一か所だから同じ場所に立ってひたすらその姿を探す。
一週間で諦めの気持ちがやってきた。十日で泣きたくなった。涙の滲む視界の中、海里を探す。
ちょうど十四日目の夜、海里を見つけた。俯きがちに歩く姿に胸がいっぱいになって駆け寄り、勢いのまま抱きついて力の限り抱きしめた。
「馬鹿……馬鹿」
「なんで……」
「探した。探し出した。もう離さない」
海里だ……本物の海里だ。顔を見上げると、なにが起こっているのかわからないという表情をして俺を見ている。その瞳は確かに俺に向けられている。
「とりあえず、うちおいで」
手を引かれて駅を後にする。握られた手の温もりに、また泣きたくなった。
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