夜明けの使者

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パンナコッタを食べ終えた伽羅はカウンターにカップと皿を運んだ。 「いつもすみません。置いたままでも構いませんのに」 店員は、伽羅から受け取ったそれを洗い場へ運ぶ。 そしてそれを置くとすぐに戻ってきた。 「そうだ、言い忘れてました。鍵ですよね。いつものとこにあるので持っていってください」 「いつも悪いな」 伽羅は数枚の札をレジの横に置いて去ろうとする。 「お金は白さまにいただいているので、これ以上は」 「パンナコッタ、おいしかったから」 伽羅はチップだと、そう言ってごまかす。 店員は、最初は気まずそうにしていた。 これ以上粘っても仕方がないと思ったのか、渋々受け取ることにしたようだ。 それを見た伽羅は満足そうに店を後にしようとする。 その背中に、店員は声をかけた。 「あの……」 伽羅の動きが少し止まる。 「あと、図々しいようですが一個だけ頼んでもいいですか」 店のドアに手をかけたまま、伽羅は店員を見た。 「帰りがけでもいいので、いつものあれ買ってきてください」 申し訳無さそうでいて、少しの期待に満ちた店員の表情。 「覚えてたらな」 それを見た伽羅は、笑ってドアを閉めた。 そして向かう先は店の裏。 そこには小ぶりな木製の倉庫と、店の勝手口。その隣には簡素なポストがある。 伽羅は迷うことなくそのポストを開ける。そこに入っていたのは小さな鍵。 伽羅はそれを自分のポケットにしまうと、木製の倉庫を開けた。 そこには一台の自転車が入っている。 伽羅はそれを倉庫から取り出すと、再び鍵をしてそれをポストに。 そうして、自転車に乗った伽羅は走り出した。 向かう先は、あの資料に書いてあった場所。 街を抜けて田をを抜けて、さらに隣町へ。 田舎は広いけれど、元気な伽羅にとっては庭も同然の近さだ。 コンビニで飲み物を買い、ついでにスマホを見て位置を確認しながら目的地を目指す。 本当ならばもっと情報があるはずだが、今回のように情報がほとんどない場合もままある。 その場合は、足りない情報すらも伽羅が自分で探さねばならない。 しばらく走っていると、ようやくあの場所にたどり着いた。 住所からして、おそらくこの辺りだろう。 伽羅が自転車で走っていると、突然人だかりが現れる。 「ここで事故でも起きたのか?」 「なんの騒ぎなんだろう」 遠目から見てもわかるように、この周辺には規制線が敷かれているようだ。 それを見た伽羅は確信を得た。 確かに現場はここで間違いないようだ。 伽羅は自転車に乗ったまま、少し遠くから人だかりを観察しはじめる。 たいていの人々は野次馬をしているのだろう。規制線の向こうを興味深そうに覗き込んだり、それについて会話したり。 さらにはそれにも飽きて家に帰ったりしている。 そのどこにもおかしなところはない。それでも伽羅はそれを見続けた。 すると、ふいに誰かと目が合う。 それはたった一人。 規制線に背を向け伽羅の方をじっと見ている人影だ。
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