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「おや、久しぶりですね。白くん」
白が玄関のドアを開けると、そこには三人いた。
一人は身なりの整った老人。何かの呪いが刻まれた数珠、質の良い着物を身に纏っている。それを挟むようにして若い男が二人。
その三人はどれもが妙な面。ちょうど節分で使うような鬼を模した赤い面をつけていて表情が見えない。
白はそれをわずかに見やると、恭しく挨拶をした。
「これはこれは。こんなところまでご足労いただいたのですね、蝋梅様」
白は三人の身元を知っていた。それらは確かに本家からの使いだ。
そして本家というのは犀が逃げてきた場所でもある。
玄関で白とその三人が話すのを、廊下に置かれ箪笥の影で犀は聞いていた。
犀は白が本家からのその使者、蝋梅たちに自分を売るのではないかとわずかに心配していた。
「賢い白くんならば我々の言いたいこともわかりますよね」
「ええ、わかりますとも」
犀が隠れているここからでは犀は白たちの様子を直接見ることはできない。
「わかっているなら話は早い。我々は例の子供を迎えに来たのです。もちろん隠しても無駄です」
「ええ、もちろん。隠す気など毛頭ございません。すぐにでもご案内しますよ」
「おや、ここまで物わかりがいいのも不気味ですね」
「内心私もあの子供は邪魔だと思っていたんです。本家の方に引き取っていただけるならせいせいします。その方があの子も幸せでしょうし」
冷や汗が出た。
そのことを犀は自覚していた。
白の声で聞こえてきたその話は、白のことをそれなりにでも信頼していた犀にとっては衝撃的なものだった。
(やっぱり……俺は邪魔だったのか?)
白は伽羅との二人きりの生活を望んでいたのかもしれない。
白にとって犀は、自分たちの平穏な生活を荒らしたお邪魔者なんだろう。
犀は俯いた。
きっと間もなく白は、本家の人間たちを連れてここにやってくるだろう。
けれど犀にはどうしようもないことだ。
唇を噛みながらそれでも玄関の様子を伺っていると、犀の隣に何か小さいものがやってきた。
コツコツと木の床を踏み鳴らしてやってくるそれは、紛れもなくきゅーりさんだ。
「おい、お前は向こうの部屋にいろ。ここの廊下は庭から見える可能性がある」
「な、何を……」
きゅーりさんは犀の肩によじ登り耳元で囁いた。
「白が相手してる今なら今なら少しの物音くらいごまかせる。早くするんだ」
「で、でも白さんは」
犀は戸惑う。
しかし戸惑う犀をせっつくようにきゅーりさんは羽をバタつかせる。
「はやくしろ、やつらに気づかれたらお前は終わりだぞ」
玄関では何を話しているのやら、白たちはまだ何やら話を続けている。
「………は………にい……ですが」
「……か、……して………か?」
きゅーりさんに気を取られてしまった今、犀は向こうの会話をはっきりと聞き取ることはできない。
きゅーりさんに服の端をかじられ引っ張られながら犀は部屋へと移動することにした。
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