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裏切りとステーキ
「ステーキには赤か?白か?」
高そうなワインボトルを眺める白の横顔を犀はすぐ隣で見ていた。
今現在二人は最寄りのスーパーマーケットであるマンネンロウにいる。
(……どういうことなんだ?!)
あれから白と蝋梅たち三人は玄関でしばらく立ち話をした後、みんなしてどこかへ行ってしまった。
外が見えない部屋の中でも会話する音と気配くらいならわかる。
犀は部屋の中でじっと耳を澄ませて、去っていく下駄の音を聞いていた。
結局白は最後まで三人を家にあげることはなかったし、拍子抜けした犀はきゅーりさんに見守られながらいつの間にか眠っていた。
再び意識を取り戻したのは、白の呼びかけを聞いたからだ。
「買い物に行くぞ」
その呼びかけでようやく眠りから覚めた犀。
目の前に白がいて、犀の顔を見つめていた。
そしてそのまま白が運転する車に乗せられて買い物にやってきたというわけだ。
寝起きでぼんやりする頭で犀はそれでも一生懸命考えようとした。
白はどうにかして上手くやりこめて彼らを帰らせたのだろうか。
(いや、本家のやつらが言いくるめられて帰るなんてあり得ない)
それは犀が長く本家にいたから知っていることだ。
本家の連中は目的のためなら何でもやるし、目的を達成するまで引き下がるなんてことは絶対にしないはず。
それでも考えれば考えるほど問題は難しくなって、犀の頭の容量は既に限界に近い状態だ。
「おい、そろそろ私は移動する。何か欲しいものがあれば持ってきてくれ」
「欲しいもの……今のところは」
白に声をかけられて犀は困ったように返事をした。
犀の頭の中は他の考え事でいっぱいで欲しいもののことなんて考える余裕は無かった。
犀はなんとなく白の持つ買い物カゴの中を見る。
その中には二本のワインボトル、その他にも野菜やらいろいろなものが既に入れられているようだ。
「結局ワインは赤も白も両方買うことにしたんですね」
歩く白の背中を追いながら犀は尋ねる。
白はどこかへ歩いて向かっているようだ。
先ほどステーキなどと独り言を言っていたから精肉コーナーを目指しているのだろうか。
犀はなんとなくそんなことを予想していた。
「……これ、ジュースなんだが。ワインのほうがよかったか?」
「え?ワインボトルに入ってるのに?ジュース?」
予想もしない白の返事。
犀は驚いた。
白からボトルを受け取った犀はラベルを確認した。そこには確かにジュースと書かれている。
それも果汁百パーセントの贅沢なジュースだ。
「へぇ、こんなジュースも売ってるんですね」
「……伽羅が飲めないからな」
白はどこか居心地悪そうにしている。
それを見て犀はまた考えた。
「伽羅さん、年齢は大丈夫なはずですよね」
「まぁ、……な」
犀と伽羅の年齢は、確かほとんど同じなはず。
犀が既に飲める年齢ならば、伽羅がそうでないとは考えづらいことだ。
それならば、伽羅が飲めない理由は何か別にあるのだろうか。
「もしかして、伽羅さんはお酒がお嫌いとか?」
「いや、酒は好きだと思う」
「……?」
ますますわからなくなって、犀は頭上に疑問符を浮かべる。
歩いているうちにいつの間にか犀と白は精肉コーナーまで辿り着いていた。
白は既にステーキ肉を見比べるのに集中していて犀の様子は気にしていない。
何もかもよくわからなくなってきた犀は、少し離れた場所で白の背中をただ見守ることしかできなかった。
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