黒い御札

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「まぁ、この先のことは座ってゆっくり話そうじゃないか」 伽羅は、犀を部屋に招き入れる。 「先に座っていてくれ」 そう言って、伽羅はキッチンへと姿を消した。 部屋へと入った犀に向かって、机の上のきゅうりさんが威嚇をしている。 「ギャアギャア、ギャア、ギャッ!!」 「伽羅さん、俺、怒られてるんだけど」 姿の見えない犀に向かって、犀は話しかける。 「多分ちょっと元気すぎるだけだから、気にしなくてもいい」 姿の見えない伽羅の声だけが聞こえる。 犀は、もう一度きゅうりさんの顔を見た。インコに詳しくない犀でもわかる。 これは怒っているのか顔だ。 羽をバタバタ。目は三角。不機嫌にこちらを睨んでいる。 むしろ、これが怒っていないはずがない。 「なんだ、まだ入ってなかったのか」 やがて盆を持った伽羅が、犀の後ろから現れる。 部屋に入ってすぐのところに犀は、居心地悪そうに立っていた。 「こんなに怒られてて座るわけにもいかないでしょ」 未だにきゅうりさんは怒り続けている。 「そうか」 伽羅は犀を無視して、自分はこたつに入った。 それを見たきゅうりさんは、戸惑ったのか落ち着いたのか羽を体におさめる。 すかさず、犀は伽羅の向かいの席に座った。 「ほら、ココアを入れてやったぞ」 伽羅は犀にマグカップを差し出す。 「うわぁ、これなつかしい」 犀は差し出されたマグカップを見た。それは犀が昔使っていた物だった。 「これ、とっといてくれたんだ」 「まだ使えるからな」 可愛らしい白の、くまが描かれたマグカップ。 犀はこれを気に入っていた。 「これって、伽羅さんとおそろいのやつ。伽羅さんのは確か、うさぎさんだったよね」 伽羅は紺色のマグカップに入ったココアを飲みながら、犀を見つめている。 「私のは、新しいのを買ったからもう使ってない」 「もしかして、捨てちゃったの?」 犀は少し残念そうだ。 「いや、探せば食器棚の奥にあるだろう」 伽羅は興味がなさげだ。 ココアと一緒に運んできた木製のボウル。そこに入った菓子を無心でつまんでいる。 おかきやら、あられやらを食べるぽりぽりとした音だけが部屋に残っている。 犀がココアの水面を眺めていると、ふいに伽羅が話しはじめる。 「それより、さっきの御札の話だが」 犀ははっと顔を上げた。 「あ、そうだった。それで、あの御札が縁結びの御札だってどういうこと?」 犀は不思議そうに尋ねる。 犀が知る限りでは、玄関に縁結びの御札を貼るなんて聞いたことがなかった。 そんな犀の疑問を、伽羅は予想していたとばかりに告げる。 「この御札は呪われていてな。私や兄貴がどれだけ剥がそうとしても剥がれなかったものだ」 伽羅はみかんの下に敷いてあった新聞紙を取り出し、それを手元に敷き直す。 そして、先程の真っ黒な御札をそこに置いた。 伽羅は、感慨深いようにそれを見つめる。 「それが、壊れる日が来るとは」 新聞紙の上で、真っ黒の御札を伽羅は両手で包むように持ち上げる。 包まれだ真っ黒の御札はやがて砂のようになって新聞紙の上に落ちる。 やがてそこには真っ黒の灰の山ができた。 それを見て、犀は驚く。 「呪われた縁結びの御札だって?!何だって玄関にそんなものが……」 「わからないが、昔からあったものだ。少なくとも犀がかつて、ここにいた頃には」 犀は、少しだけ感慨深そうな表情をする。 それと同時に、納得していない様子でもあった。 「それじゃあ、俺が玄関ドアを開けられなかった理由って何なのさ」
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