黒い御札

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「ここで人間が暮らせるとは思えないんだけど」 犀は部屋の中の様子を見て、驚いていた。 部屋の中には、たくさんの荷物。そこは倉庫のようになっていた。 「仕方がないだろ、ここは私が仕事場として使うのにちょうど良かったんだ」 伽羅はその荷物の山を、まるで波のようにかき分けてどかそうとしている。 けれど、そんな努力も焼け石に水。 「自分でも気づかなかった。私は、いつの間にかこんなにも散らかしていたんだな」 この量の荷物が片付く未来なんて、想像すらできないほどだ。 「ま、しばらくは向いの私の部屋で暮らせばいいだろう」 入り口付近の荷物を少しだけ触って、早々と諦めた伽羅は犀に向けて言い訳をはじめる。 そのとき、犀は思い出した。 白の言葉を。 白は、部屋を使いたいならば、二人で頑張ることだ。そう言っていた。 あれはこのことだったのか。犀は変な風に感心をする。 「お前の荷物があるなら、向かいにある私の部屋に運んでおくといいだろう」 「あの……荷物持ってないって伽羅さん?」 犀の言葉を待たず、伽羅は既に部屋を後にしていた。 犀もその後を追う。 二人が廊下に出て向かい。そのドアにプレートはない。 無装飾のドアを伽羅は開く。 「ここに客用の布団を持ってくれば寝られるだろう」 その部屋は、可愛らしい木製のベッドとサイドベッド。 そしてその上に載せられたお花のランプ。 それだけの簡素な部屋だった。  向かいの部屋とは打って変わって広々とした空間が広がっている。 「こっちの部屋はめちゃ綺麗だね」 部屋の窓のそばにある可愛らしい素朴なカーテンを犀は見ていた。 素朴なカーテンの裏には、これまた可愛らしい素朴な窓。 その窓からは、屋根とたくさんの木。そして青空がよく見える。 とてもよい景色だ。 「この部屋は、寝るのにしか使ってないからな」 そう言ってすぐ伽羅は、部屋を出る。 「伽羅さん、どこ行くの?」 伽羅は答えない。伽羅を探して廊下に出た犀は、伽羅を見つけることができなかった。 どこかからゴソゴソと何かが動く音がする。 「あった。これだ」 少し遠くから、伽羅の声が聞こえた。 そして、部屋の入口から何かが入ってきた。 それは、大きな布の塊だ。 「どうしたの、それ……」 布の塊から、少しだけ伽羅がのぞいている。 「布団だよ。持ってきたんだ」 犀はあわてて伽羅を手伝おうとした。 しかし、伽羅がしっかり布団を持っていたのでそれは叶わなかった。 「もう、持ってきてくれたの?……ありがとう」 伽羅の近くであたふたとする犀。 犀は、伽羅に手間をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 「ああ、客用ではあるがうちに客なんて来ないしな。使っても構わないだろう」 伽羅は布団を床に下ろす。 「そういえば……」 伽羅はすぐに布団を抱え直した。 「えっ、どうしたの?俺も手伝うよ」 相変わらず犀は伽羅のそばで慌てふためいている。 「この布団しばらく使ってないから干したほうがいいかもしれない」 伽羅は布団を抱えてすばやくどこかに行ってしまう。 「それ、俺んでしょ。やってくれなくていいよ。俺が運ぶよ」 犀は再び伽羅の背中を追う羽目になった。
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