黒い御札

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「それで、なんとかなったのか?」 「なんとかなったといえば、なったのかな……と思います?」 歯切れの悪い犀の返事を聞いて、白はすべてを察した。 それは夕飯の時間の会話。 ダイニングの大きな木製テーブルには、既に美味しそうなすき焼きが湯気をたてている。 洒落た格子模様のプレースマットの上には空の器と、茶碗に綺麗に盛られた白米。 添え物として沢庵の小皿やら味噌汁やらまで完璧に用意されている。 それらは白と伽羅のぶん、インコ用のご飯が盛られたきゅーりさんのぶんだけではない。 突然やってきた犀のぶんまで几帳面に並べられていた。 「すみません白さん、俺の分の晩ごはんまで……」 「お前の分だけ作らないわけにもいかんだろう」 白は、相変わらずの無表情で犀を見ている。 「まあ、ここに帰って来てしまったのは仕方がない。それに全く知らぬ顔でもないことだ」 白と犀のやりとりを無視して、伽羅は一生懸命すき焼きのお肉を食べていて。 きゅーりさんに至っては、自分の器のご飯をかさかさと漁りながら食べ、嘴ですりつぶしながらついでに犀を睨みつけている。 器用なことだ。 「それで、本家のやつらにはここに来ることは伝えたのか?」 白はまだ晩飯に手を付けず質問を続ける。 「いえ、言っていません」 「では、逃げてきたのか?」 白は向かいの席に座る犀をまっすぐ見つめる。犀はどこか居心地悪そうな顔をした。 「そう……なるでしょうね」 犀はうつむいている。 「これ以上は聞かないでおく。お前もお前で辛いことがあったのだろうからな」 仕方がないと言わんばかりの表情。短いため息。 白はそれ以上犀のことを追求するつもりはないようだ。 「たが、私達にも事情がある。この家にいるうちは、この家の規則に従ってもらう」 「白さん、ありがとうございます」 「それでいいか?父さん」 白はきゅーりさんを見た。 きゅーりさんは不服そうにギャアギャア言っていたかと思うと、突然日本語を話しはじめる。 「否」 それを見た犀は驚いた。 「と、とりがしゃべってる?!」 きゅーりさんはそんな犀に構うことなく話し続ける。 「この者は未だ信じるに値せずと我が主より仰せつかっておる。白様。どうかその旨をご理解いただきたい」 「それはわかっているつもりだ。だが、それ以外の選択をした場合、払う代償は今よりも高くなるだろう」 白の言葉を聞いて、きゅーりさんは黙った。 「伽羅もそれで問題ないな」 伽羅は白を見た。 「なんの話だ?」 伽羅は、全く話を聞いていなかったようだ。 「伽羅、しっかりしてくれ。いいか、これからお前が犀の面倒を見ろ。わかったな」 「犀が私の面倒を見るのか?」 「違う。お前が犀の面倒を見るんだ」 本当に大丈夫か。という目で白は伽羅を見ている。 「とにかく、伽羅でわからないことがあれば私に聞いてくれ」 少しの冷めた甘いねぎを犀は頬張り、それからお肉を食べた。 箸で冷めた白飯をつつくと張りがある。 話をしているうちに犀のご飯は冷めてしまって少し乾いたようだ。 伽羅は食べ終わったようで、机にひじをついて犀を眺めていた。 「食べ終わった皿を持っていくついでに、お前のご飯をあたためてこようか?」 「いや、大丈夫」 伽羅の申し出を犀は断る。冷たくなってしまったごはんを一口食べた。 冷たくなっていても、味はおいしい。
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