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act4-1 かつてのアイドル女子を下す、が下さず
城市茂次郎の存在も気になるけど、あの女が企画部に現れたので、私は終始気が削がれた。
単なる工場現場の雑務事務員だったが、企画をしたいと移動願を出したそうだった。勤務態度も悪くなく、ちょうど配置換えもあったので、若い人を入れるということで、本人の希望が通ったらしい。
そうして、最近、企画部には、伊藤エリカが上がって来た。
同時に、竹内涼も、彼女の伊藤エリカが心配だからと、営業部に希望を出して、これまた上がって来た。
(竹内涼まで・・・)
近い場所に寄ったせいか、竹内君、エリカと呼び合うあの二人の姿を目にする。
相変わらず、高校の時と同じで、恋愛カップルをやってる。
「あ、失敗、もう、私ったらドジ、プンプン」
「もう、伊藤さんは仕方ないなあ、おい、誰か手伝ってやれよ」
あのかわい子ぶりっ子がヨタヨタと段ボールの荷物を抱え、うんもう、嫌になっちゃうと通路を行き来する。
がたがたーん。何かが倒れる音。棚でも倒したか。高校の頃から、よくこけたり、ものを落としてたりしてた。それでハプニングが起こって、誰もが彼女を助けていたんだよね。
「エリカ、大丈夫か?」
「あ、竹内君、もう、心配しないで。ぷんぷん。ぷんだ。ここに来ないで。見られたら、ああ、やだ。公私混同って言われちゃう。困っちゃうわ」
「エリカのことを放置できるかよ。お前そそっかしいから、心配だ。俺も営業部にいるから、いつでも頼っていいんだぜ」
「うん、エリカ、頑張る、エヘペロ」
伊藤エリカの書類。私の手の中にあるものを、ぺらぺらとし、手でパンパンとした。
(今の私なら、あいつを下せる)
私のほうが立場が上。会社の業務経験も上、仕事も上。いかようにも下せる。失敗をほじくり返したり、無能さを露呈させることも出来る。
「ねえ、伊藤さん、この書類、添付書類の不備だから、もう一度、確認して?」
「え?は、はい」
企画部に乗り込んで、私は書類を渡した、叩きつけたかもしれない。
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