act4-1 かつてのアイドル女子を下す、が下さず

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「あ、ごめんなさい、沢島さん?今書類ないから、また持って行きます。エヘ」   伊藤エリカは高校時代と同じで、何かあっては間違えて、可愛くエヘペロしたら、済むと思ってる。 (自分を可愛いと思っている。まったくあざとい女)  書類も足らない。相変わらずのドジっぷり。笑顔も何が楽しいのか満面の笑み。 (同じだ。前と同じ。伊藤エリカはドジで一生懸命なふりをして、可愛く取り繕って、男性の目線を釘付けにする。きっと高校を卒業してからも、同じことをし続けて来た)  そして、周りのことなど眼中にない。私のことも、顔も名前も覚えてない。 「急いで。申請するのに、すぐ必要だから」  書類を揃えることすら出来ない、ドジで、失敗ばかりで、可愛いだけが特技なんて、あまりに低水準過ぎる。  言ってやるわ。はっきりとそう。  高校では負けたけど、社会に出た私たちなら、今は私の勝ち。 (伊藤エリカをようやく下す時が来たわ)  顔が可愛いだけで、仕事が出来るわけがない。これしきも出来ないようでは、あまりに、低能だわ、って。この超絶仕事マニアの沢島と、比べものにならないわねって。  言い出しかけたら、なんだか、とたんに、とても小さなことに思えた。 (どうでもいい。凡ミス過ぎて、怒る気にもなれない)  下そうと思ったけど、私は下さなかった。  どうせ言ったって、ああそうね、ごめん、エヘペロ。私ってドジだから、エリカ、また一生懸命頑張る、私ってそれだけしか取り得ないからって笑って済ますのが分かる。  私はあの頃とは違う。社会に出て、立派な人間は、小者など相手にしない。  それだけ言って、部署を出た。 「おう、こわ。沢島のイジワル、見た?」 「高校の時に、振られた恨み、やり返してるのかな?」  企画部にも同じ学校の人や地域の人がいて、私のクラスメイトたちから噂が広がっているから、私はまた、陰口を叩かれた。  同じだ・・・またあの頃と同じ。繰り返しだ・・・
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