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「あ、ごめんなさい、沢島さん?今書類ないから、また持って行きます。エヘ」
伊藤エリカは高校時代と同じで、何かあっては間違えて、可愛くエヘペロしたら、済むと思ってる。
(自分を可愛いと思っている。まったくあざとい女)
書類も足らない。相変わらずのドジっぷり。笑顔も何が楽しいのか満面の笑み。
(同じだ。前と同じ。伊藤エリカはドジで一生懸命なふりをして、可愛く取り繕って、男性の目線を釘付けにする。きっと高校を卒業してからも、同じことをし続けて来た)
そして、周りのことなど眼中にない。私のことも、顔も名前も覚えてない。
「急いで。申請するのに、すぐ必要だから」
書類を揃えることすら出来ない、ドジで、失敗ばかりで、可愛いだけが特技なんて、あまりに低水準過ぎる。
言ってやるわ。はっきりとそう。
高校では負けたけど、社会に出た私たちなら、今は私の勝ち。
(伊藤エリカをようやく下す時が来たわ)
顔が可愛いだけで、仕事が出来るわけがない。これしきも出来ないようでは、あまりに、低能だわ、って。この超絶仕事マニアの沢島と、比べものにならないわねって。
言い出しかけたら、なんだか、とたんに、とても小さなことに思えた。
(どうでもいい。凡ミス過ぎて、怒る気にもなれない)
下そうと思ったけど、私は下さなかった。
どうせ言ったって、ああそうね、ごめん、エヘペロ。私ってドジだから、エリカ、また一生懸命頑張る、私ってそれだけしか取り得ないからって笑って済ますのが分かる。
私はあの頃とは違う。社会に出て、立派な人間は、小者など相手にしない。
それだけ言って、部署を出た。
「おう、こわ。沢島のイジワル、見た?」
「高校の時に、振られた恨み、やり返してるのかな?」
企画部にも同じ学校の人や地域の人がいて、私のクラスメイトたちから噂が広がっているから、私はまた、陰口を叩かれた。
同じだ・・・またあの頃と同じ。繰り返しだ・・・
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