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「来て」
彼は私の手を取り、部屋を連れて出た。
「ちょ、ちょっと待って、どこへ」
そのまま会社まで出て歩き出したので、私は戸惑いながら聞いた。
「いいから、いいから」
もう夜だから心配だったけど、そのままぐいぐい引っ張って行かれて、どこに連れていかれるかと思ったら、近所の神社。
「はい、ここでお祈りして」
彼はパンパンと、手を打って、神社に拝礼し、祈る。私も言われるまま、手を合わせた。
「これで縁が切れた」
祈りが終わって、神社の境内に出て、彼は私を見て言った。
「え・・・?」
「ここは悪い縁も落としてくれる神社なんだ。うちの家業のそばでずっと見守っていてくれて、守り神と思っている。頼んだら、悪い厄も落としてくれる。さっき、ああして祈って、悪い縁は落としてくれるように頼んだから、もう、終わったよ。あいつとのことは」
「な、何を言って・・・?」
「だって、あれ、またライバル心剥き出しの結果、つまり、あの人を妨害しようとしての企画書なんだろ?でも、あんなの、素人の思いつきだね。君はデザインも商品企画も素人だよ、残念ながら、君のデザインは、あれしきどこでもある。せっかく出しても、役に立たない。だから、あんなの出さないほうが、沢島さんのためだよ」
「どう・・・して?」
私が前に言った、元手下たちに言ったことと同じ、そろそろ、縁を切ったらどうと言ったのだ。なぜ、私のその望むことをしてくれるのか。
高校時代の悪い結果に、私はどれほど呪われただろう?それを彼のようにどれほど切ってしまいたいと思ったか。なぜ、それを言うのだ、彼は。
彼は私が竹内涼に振られたことを知っているのは当然としても、あの女子を止めようとしているなんて、気づいているなんて・・・なぜ?
竹内涼との因縁まで気にしているなんて。
いったい彼は何をしたいの?
その行動と発言に、私は恐れて、言葉を発そうにも、声にならなかった。
「どうしてか?もう、二度と繰り返すことないじゃないか。君は君で人生があるんだから、君は誰にも影響されるべきじゃない。君の人生は君のもの。君がここにいるのは、君のため。今までも、これからもずっと、君のための人生だ、君は君のためにある。僕は君の人生を君の手に取り戻す。奴らのために捧げる人生じゃない」
私のため・・・?
彼は私が見事に伊藤エリカにやり返され、見事に振られたことを、彼も知っている。
あの頃のことを彼が知っていて、こうしたのだと思うと、私は身が震えた。
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