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act5 会社を倒そうとする噛みつき犬へ、噛みついて、撃退する
何にせよ、私はハードな人生だ。ハードな人生を歩む運命。
高校の時から、それは覚悟出来ている。
普通の幸せなど期待しない。甘く切ないものなんて、私の人生にない。似合わない。
私なりに、生きてこそ、私。
私は、私の生き様で私に出来ることをして生きてやる。
「あ、また来てる」
うちの会社は大手ではないが、上場しているので、今はやりのM&A、すなわち買収計画がよくある。
大半の株式は、親族会社の親族に買い占められているから安心だけど、そういう売買を専門にしているコンサルタント会社みたいなのがあって、営業はしょっちゅうだ。中にはタチの悪い連中もいる。
そういうところは外国資本の会社らしく、海外でいかにも活躍しそうなビジネスマンがやって来る。
髪は長毛、ぎらぎらしたネックレス、会社に来るときは、グラサンで態度は横柄だ。
私は同僚と自社工場の一階フロアで社長が応対しているときに、そこを偶然、通りかかった。
窓際の応接ソファがあって、くるくる長髪を濡れ濡れにした横柄な男の前で、弱気の白髪社長が困り顔をしている。
「ねえ、城市さん、例の話、考えてくれました?」
うちの業界も、やはり不景気によって業績はかんばしくなく、他の企業と合併したら、大きくなって良いですよと持ちかけて来る。
無口で大人しい社長は、このうるさ型の連中には、太刀打ちしきれてない。
「あの人、この前、高級クラブで女の人と騒いでいたわ。ちょうど、友達とカラオケではしごしてて、あの人を見たの。なんだか、嫌な感じだった。取り巻きの女の人とか、金の匂いがぷんぷんして、嫌だったわ」
同じ部署のメガネでぽっちゃりの梅香が、メガネを光らせて言う。
社長は困っている。社長としては仕事だが、社長だとて人間。断わり切れないこともある。
(私の出番だわ)
断っても断っても、聞かない連中には、はっきりと言うしかない。
社長には恩義がある。この身に代えても、この恩義、晴らす。そう決めたのだ、私。
「あ、沢島さん」
私はつかつかとそのソファまで言った。
「城市社長なら出来るでしょう。城市社長の一存で、この取引を成立させてくださいよ」
「あ、う、あ・・・うーん、うーむ、それは」
「とりあえず、まずは、こちらの社長と皆で、飲みに行きましょう。良い店知ってるんですよ。こちらも大盛り上がりはさせてもらいますよ」
「しかし、それはもう、うちとしては考えておらないというか」
「そうは言っても、この前とは違う良い話をして来たので、一度、話を聞いてくれませんか。先鋒の社長と、御社は懇意なんですよね?すげなく断られたって言いましょうか?」
「え?いやあ、そう、言われましてもねえ・・・」
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