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会場が大きくざわめく中、私は壇上で脚光を浴び、パネル席について、マイクの前に座る女社長安達に向かって、言った。
「我が社は創業以来、伝統の創業を続けて来ました。形や用途を変えても、その家業伝来の技は変わっていません。技とは、誰かのようにカネで買えるとか、誰でも設計したら出来るというものではありません。
うちでは、長年の研究とたゆまぬ努力により、うちにしかない製品を生み出して来た強みがあります。それがもし、今で言う製法や分析による解析で解明されたとしても、他に奪われないもの、気概というのがあります。我が社にはその唯一無二のこだわりがあって、一つ一つが天下一品。
耐用年数では民生品では、業界どこにもないトップクラス。どこへ出したって恥ずかしくありません。あなたなんかの言うように、ちょっとそこらで出来たもののみたいに出せるものではありません」
わ。おーほっほっほ。
最後は、お嬢様口調でつい、ですわ、おーっほっほが出てしまいそうになったけど、押さえた。よく出なかったものだ。
「お、おい、沢島さん、また噛みついたぞ」
「げ、あの社長に、あんなこと言って大丈夫か?」
「社長、あちらにそっぽ向かれたら、うちなんか、潰れてしまいます。安達社長のとこの取引で、うちはもってるんですよ。なんとかこの場を押さえてください」
「う、うむ、うーむ、しかし、間違ったことは言っとらん」
「そんな、社長」
「うわあ、沢島さんがとうとう、やってしもうた」
ざわざわ、どよどよ、会場が揺れ動いた。
「よく言った、ほほほ、その度胸、痛快だわ」
しかし、その時、なんと、女社長は私と似たような笑い方で笑い出したのだ。
さすが、この無数の強敵がいる社会を、銭ゲバの欲望で生き抜いた女性。私を賞賛した。
「会社のために、貢献できるあなたのような人間がいる会社は尊い、これからも強いだろう、我がパートナーの会社にふさわしい」
女社長はただ、もう私を褒めちぎった。最後は拍手までしてくれた。
「細かい話はもうどうでもいい。もう、四の五の言うことはない。あなたが気に入った。これから、あなたの会社への注文を倍にして増やします」
「やったぞ、沢島君」
ということで、私が戦ったことで、なぜか、合併話は消え、その上、私は会社の売上を倍増させることになってしまった。
社長も、部長も専務も、大いに喜んでくれた。
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