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「どうしたの?また不機嫌な顔をして」
会社の社屋が見えて来たと思ったら、横に茂次郎が立っていて、私の肩をこつんとした。
「元気ないな。いつもの沢島さんはどうした?食いついて離れないのが、沢島さんでなかったのか?」
・・・けっこう、当たり障りある言葉を使うじゃない。
「やっぱり、あんたも、私のこと馬鹿にしてる?」
「そんなわけない。元の君、今の君のほうがいい。そう言おうと思って来た」
あ、なんで、私、胸がどきどきしてるんだろう、こいつに。
「あ・・・あんた、な、何?どこから来たの?」
「通勤車から。送迎手に手前で下ろしてもらった。君が見えたから」
「いいわね、送迎ありなんて、さすが重役」
彼はぐるっと回って私を覗き込む。
「な、なに?」
「早くいつもの沢島さんに戻れよ」
「どうして、あんたに言われたくない」
「君はもっと優秀だったはず。君は勤務態度も真面目で、仕事もひと一倍出来るし、次の主任にという話も聞いてる」
「なっ・・・いい加減なこと言わないで」
「それは君は優秀で本当に一目置かれているからだよ。僕だって、君のことを一目置いている。もう、そんなに誰かと比べて、自信を落すことはないだろ」
何やら、私が励ましたのが感謝された結果だけど、そのお礼?律儀な人だわ。
「だって、悔しくないか?高校の時のことをいつまでも引きずっているなんて、悔しくないか?」
「もちろん、私だって悔しいわよ。私はもう仕事で一目置かれている立場なのよ、次に主任にもなるわ。今の小長井主任の次は私よ」
かつての私を知る相手がお返しに私を励ますなら、私も黙っていられず、つい元の自分の本性をさらけ出したまま、言い返した。
「まだまだ、だな。元の自分を早く取り戻せよ」
彼はそう言い、歩いて行った。
朝っぱらから・・眩しいことを言ってくれるじゃない?
いったい、あんた、何なの?
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