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(なんという事態だ。これは何としても、阻止せねばならない)
あいつに活躍など、されてたまるものか。
「ねーえ、伊藤さん、まだ帰らないの?」
「うん、もう少し」
単なる耐熱ガラス容器のデザインだが、どこをどう変えるのに、どんな時間をかけているのか知らないが、会社に寝泊りまでする。昼はカップラーメン。分厚い本を何冊も机の上に置いて、こっくりこっくりしては、ばさばさと落す。風呂にも入らず、着替えもせず、目の下にクマまで作っている。
「もと総務部の営業一課です。部長のお土産のおすそ分け、持って来ました」
「お、沢島さん、ありがとう」
私は口実をつけて、企画部に様子を見にいった。
入ってすぐ、部署全体が活気に溢れ、仕事に熱中している風が感じられた。
ぐう・・・ぬうう・・・・。
あんな奴なのに、何、この、仕事で活気にあふれた感。
あいつが入ったら、気運もやる気も、下がらねばならないのに。
「ねえ、伊藤さん、大丈夫?根、詰め過ぎじゃない?」
ドジでそそっかしくて、あまりに一生懸命すぎるので、周りも心配し出した。
「うん、大丈夫。私、一生懸命頑張るしか能がないから、頑張るしかないの」
本当に、あの女の言う通り、ドジで失敗ばかりだから、一生懸命頑張るしかない。それをあの偽善者は有言実行している。
「伊藤さん、コーヒーどう?」
「伊藤さん、出来てる?どう、進み具合、お、頑張ってるねえ、皆応援しているよ」
あいつは一生懸命頑張る己って言う演出をし、周りの同情を引く。それがまた見事に皆、引っかかってしまった。
「伊藤さんがいつも頑張って、ニコニコしてくれるから、うちの部も張り合いが出るよ」
「ありがとうございます。私、頑張ります」
ぐうう・・・・うぬうう・・・
あやつはあの天真爛漫な無垢な笑みで、結局、一生懸命さを発揮し、企画書を作り上げてしまった。
なんてこと。あいつの作ったものなんて、地獄の鬼のスープと同じよ。
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