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私はそれでも走った。
元の家へ帰る本能みたいに突き動かされて、でも・・・不安で、心の中が嫌悪感に満ちて来て、何をそこまでムキになって走っているのか、私にも分からなかった。
「何か?」
思わず、目が合った竹内涼が私を怪訝な目で見た。その何の抑揚もない目に私は思わず、足が凍り付いた。
そうだ、あれからもう、4年も経ってる・・・その間に、どれほどのことがあっただろう、伊藤エリカとも、どれほど親密になっただろう。
「竹内君、私の事、覚えてる?」
「覚えてるよ、高校の時、同級生だった」
ああ・・・単なる、私はこの人の、同級生ってだけだったんだ。ある意味、邪魔島犬呼ばわりした元同級生の中では、一番まとも。同級生の私を悪く思ってないのだから。
それ以上も以下もない。今でも、単なる同級生ってだけなのが、この人の言い方で分る。
たぶん、あの頃も、私って、ただの同級生ってだけだったんだろうな。
何も思わない。もう・・・前から分かっていたから。
「あ、ううん、ちょうど通りかかっただけ。このペンでサインしなきゃいけない書類があったから、あ、結婚するのだって?お幸せに」
私は手に持っていた鉛筆を見せて、にかっと笑った。竹内涼は相変わらず困惑した表情をしていた。何か言いかけたので、私は背中を向けて、一気に走り出した。
「どうしたの?」
その後、ちょうど伊藤エリカが来た。
「ううん、沢島さんが来て」
「沢島さん?」
「エリカのライバルの」
「ライバル?そんな人じゃないわ。あの人、優しくて明るくて、人気者で、私も好きな友達の一人なのよ。あの頃も手の届かない人だったけど、今は偉いさんだから、私、尊敬しているの。あの人、いつも一生懸命でしょ」
「エリカもな」
「エヘ、やっぱり竹内君なら、分かってくれると思った、エヘペロ」
私はその会話を聞いて、足元から崩れた。
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