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act2-4 ウィニングボールを君に
「あの女だけは、許せない」
あれ以来、人事部の越前谷が私の事を何かにつけて、心良く思ってないようだった。
「ねえ、あの女、また出て来たらしいわよ」
高校の時の私の手下たちも、こそこそと聞こえる内緒話。希望が通り、正社員になった私が、高校の時と立場を逆転させたから、気に入らないらしい。
(野球の声援の声と違う、声が聞こえる)
その日、会社行事の部署別野球大会があった。
まったく、社内の野球の試合で、私の悪口まで言うなんて、とんだ会社に来たものだわ。ま、美しく、才能があり、実力主義の中では勝ち誇る私だから、仲間からやっかまれるのだろうけど。
プロチームではないが、レクリエーションの一環で、我が社には野球チームがあり、トーナメント試合をやっている。
私ら職員は表向きは業務外だが、暗黙の圧力で応援に駆り出される。
ただ、天気の良い日に野球観戦となると、良い気晴らしになる。
近くの野球場に行って、カキンという音、試合会場の雰囲気に、私も楽しさを感じていた。
「部長、確認させてください。会社行事は業務外ですか、それとも業務上ですか?」
「ま、まあまあ、沢島さん、そう怒らなくったって。いつも、やってるじゃないか。単なる草野球の試合だから、あとは、居酒屋にしけこんで、皆楽しくやるんだからさ」
「部長らは良いですよ。そうしてしけこめば。でも、見てください。皆、しけこんで行くから、何も片付いてない。これ、後片付けするの、私らなんですからね」
試合場となったグラウンドには今はほぼ人はいない。皆、居酒屋へ行ってしまった。
「おいおい、沢島さん、言い過ぎでないか、相手、部長だっての分かってるのか?」
「やっぱ、噛みつくよなあ」
「いつも野球部員や応援団は先に、居酒屋へ行ってますよね、社長?」
「う、うむ」
「今日は社長もいらっしゃるのに、あいつは元気だな」
影でこそこそ言っていた同社内の職員。
私がぎらっと睨むと、すごすごと散っていく。
「四の五の言ったって、散乱したバッドやボールは勝手に片付かないんですからね。もっと片付ける人を増やさないと、ね、社長、そう言ってくださいよ」
「う、うむ」
気の弱い社長は、何を言ってもうん、とか、ううーんとかしか言わない。だから、弱気社長。いても役に立たないとか、うっとうしいと言われて、あまり尊敬されてない。
「社長、ああいうので大丈夫なのかな?例の買収会社の連中がまた、来てるんだろ?」
「知らね。売られたら売られたときさ」
無責任な会社連中は、影口までこそこそ言ってる。
でも私は言わない、言うぐらいなら正面向かって言う。黙ってこそこそするなんて嫌。
「あんたら、何を言ってるの?ちょっとこちらに」
と言いかけたら、私が社長にまで文句を言うと思った上司から、引き止められた。
「お、おい、沢島さん、いい加減、止めてくれ。特に社長は、社長には食ってかかるな。俺らが片付けたらいいんだな」
「仕方ないですねえ。部長らはもう居酒屋行ってください。あとは私らが片付けて置きますから」
「お、すまない、沢島さん。じゃあ、お言葉に甘えて」
「部長がもう待ちきれないみたいですから。放置して行ったら、グラウンドの人も迷惑でしょ」
「悪いね。じゃあ頼むよ。女子らはもうあとは、帰っていいから」
「はい」
ふん、おじさんらばっかりの居酒屋なんて、セクハラばっかりよ。誰が行くもんですか。
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