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2018年3月1日
校内で一番大きい桜の木。その下で二人、頬を染める。
手には一本のカーネーションと、今にも消え入りそうな勇気。
それらを握りしめて、僕は彼女を見つめた。
「川田京華さん!」
震えながら彼女の名前を呼ぶ。
「…はい。」
恥ずかしながらも、目を合わせてくれる。
「ぼ、僕と、付き合って下さい。お願いします…」
大事なところで小さくなる声。
脳内で後悔しながら、右手を差し出し頭を下げる。
広いグラウンドに二人きり。
卒業にはしゃぐ同級生の声が、やけに大きく聞こえた。
一瞬だったような、凄く長かったような時間が流れて、
少し冷えた柔らかい手が触れた。
「よろしく、お願いします。」
確かにそう言った。僕は何度もその言葉を頭に響かせ、理解しようとした。
やっと現状が把握できた頃には、涙で溢れていた。
情けなくて顔を上げられない僕を、彼女は笑って抱き締めてくれたんだ。
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