2021年3月1日

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2021年3月1日

同棲して初めて迎える記念日。 今日はカフェにお茶をしに行く約束をした。 普段自分から誘わない彼女の、珍しいお誘いだった。 だが、俺は気乗りしなかった。 職場の後輩が会社を辞め、残業続きの日々を過ごしていたから、 正直疲れている。そのせいか、喧嘩も増えた。 同棲すると、お互いの知らない一面が見えて、 喧嘩が増えるって聞いたことがあった。 自分たちなら大丈夫だと、どこかで思っていた。 一緒に風呂に入ることも断られるようになったこの頃、 俺は彼女への接し方がわからなくなっている。 「準備できた?」 部屋を覗くと、マフラーをしている彼女がいた。 上着すらいらない季節なのに、厚着する彼女を見てイライラしてしまう。 「それ、いらないんじゃない?」 「隙間風が入ると寒いの」 「歩いてたら暖かくなるって。  それに、京華は暑いと機嫌悪くなるじゃん。」 「…どういう意味?」 「…疲れてるんだ。機嫌取りなんてしたくない」 言ってから後悔する。やってしまったと、手で口を塞ぐ。 また言い合いになる前に謝ろうと顔を上げると、声も出さずに泣く彼女。 言葉よりも先に体が動いて、彼女を抱き締めようと手を伸ばす。 「!!」 びくりと肩を震わせて、俺から距離を取る。 まるで肌を隠すように、巻いたマフラーを強く握っている。 「京華、どうし…」 「触らないでっ…」 いつもと違う様子に心配になり、嫌がる素振りを無視して、 彼女の腕を掴んで引き寄せる。 袖口から見える細い手首に、青紫色の何かが見えた。 気になって袖をめくると、それは何個も連なって彼女の肌を汚染していた。
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