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痣?火傷?青タン?
色んなものが脳内を駆け巡ったが、そのどれもが違うと判断した。
同棲してから、以前のような絆創膏だらけの姿を見なくなったから、
傷は治ったのだと思っていた。
「これ、どうした…?」
「…」
言おうか躊躇っているような表情。
「京華。ちゃんと聞くから、話して」
涙を拭ってやりながらそう言うと、恐る恐る開く口元。
「…信じられないと思うけど…私、人の傷を貰える力があるの」
彼女の言っている意味がわからず、理解に苦しむ。
力…ってなんだ?超能力的なものか?
「悲しいとか、辛いとか、疲れたとか、マイナスな感情…心の怪我。
その人の胸に手を当てることで、傷を貰うことができるの。」
彼女の真剣な瞳から、嘘ではないことを察する。
つまり、貰った傷が、京華の体に傷跡として残るということなのだろう。
「…これ、見て。」
カーデガンのボタンに手をかけ、外していく。
次々と纏っていた衣服を脱ぎ、露になったのは白い身体ではなく、
顔以外が青紫色に染まった肌。
「気持ち悪いでしょ?こんな身体…」
隠すように腕を前で組む。
彼女を見ていると、今までの日々が脳内に戻ってくる。
『…足、どうした?』
『朝起きたら痣ができてて』
『…痛い?』
『やめてっ!!』
『京華?』
『見た目ほど酷くないの。大丈夫!』
『なにしてんの』
『疲れが取れるおまじないだよ』
彼女はだんだん、隠すようになっていた。
長袖ばかり着るようになったのも、一緒にお風呂に入らないのも。
あろうことか、僕の傷を貰っていた。この細い身体に、僕がつけた傷がある。
「…ごめん、」
普段誘わない彼女がカフェに誘ってくれたのは、
この話をしたかったからじゃないのか?
3年間一人で抱えて、悩んで、その果てに僕は…
『これ、いらないんじゃない?』
嫌われるのが怖いと怯える彼女を、踏みにじったんだ。
「本当に、ごめんっ…」
いくら口にしても、きっと足りない。
彼女の3年に比べたら、たった3文字の謝罪など。
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