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「あの、すみません」
とんかつ定食と半ラーメンのセットに
舌鼓を打った俺は、年配の女性店員を
呼んだ。
「はい、どうしました?」
「さっきの店員さん、体調でも悪いんですか」
「葵くんのことを言ってます?」
「葵、くん?」
まさか。女の子じゃないのか?!
彼はまだ厨房の奥で俺を見ている。
「そうです、あの彼です」
「お呼びしますよ、お待ちくださいね」
葵くーん、と声を出しながら
女性店員が厨房に向かう。
しばらくして、
彼が俯きながら俺の席にやって来た。
「あの、大丈夫ですか。具合でも」
「いえ‥‥すみません」
「おいしかったです。また来ますね」
「あ、ありがとうございます‥‥」
途端、沈黙が2人の間を横たわる。
彼がその場に立ちすくむのを見て、
ある予感がしていた。
果たして言ってもいいのだろうか。
そもそも、俺の勘は当たってるのか。
言い淀む俺に、彼の唇が動いた。
「ラズベリーの、」
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