名家の令嬢に意図した秘密はありません

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名家の令嬢に意図した秘密はありません

 秘密なんて、私は二十六年の人生で一度もなかった。  隠さなくてはいけないということが嫌で、聞かれたことには全て答えてきた。  そんな私は周りから「真面目」だとか言われて信頼もされてた裏で「あの人何でも話しちゃうから」と、秘密事は話さないというのが会社内の私に対しての常識。 「あの、今日の会議なんですが──」 「あー、キミはいいよ。誰かに情報漏らされたら困るからね」  間違ったことなんてしていないのに、次第に距離は開いていく。  そんな私が偶然聞いてしまった会社の秘密。  忘れなくてはいけないのに、聞いたことをなかったことには出来なかった。 「なんてことをしてくれたんだ!」  私が隠し事をしないと知れ渡っていたことで、他社の社員に聞かれたときにあの秘密を話してしまった事が原因で会社に損害を与えた。  その責任で私はクビ。  損害賠償も請求されて、私は何か間違ったことをしたんだろうかとフラフラ帰路を歩いていたら、赤に変わる信号に気づかずその後は──。 「転生していたわけだ」  誰に話しわけでもなく、前世の出来事を振り返って溜息を吐く。  この世界の貴族令嬢として転生した私が、前世の記憶を思い出したのは一年前。  転生する前に神様みたいな人から『前世の事は誰にも話してはならぬ』と言われた。  つまり私に秘密にしろと神様は言っていたわけなんだけど、律儀にそんなの守る必要はない。  前世で死んだ原因が、秘密を話したことだとしても。  テレビや小説、漫画などを前世では見てこなかったからわからないけど、学生の頃に転生物が流行っていたのは周りの会話から知っている。  小説やゲームなどのキャラに転生するのがお約束みたいだけど、残念ながら私は無知。  今私がいる世界は前世とは違う貴族社会といった感じで、貴族が威張り散らしている。  そんな貴族社会の中でも名家である家の娘として生まれたのが私。  今年で二十歳を迎えても、男の影すらなければ大きな事件もないまま平和に過ごしているわけで、何かの世界のキャラに転生したならこんな普通の日々はまずないだろう。  私はただ、前世とは違う世界に転生しただけということだろうか。  どちらにしても、今の私のリアルはこの世界に変わりない。  これからも貴族令嬢の立場を満喫しようと思っていたのにこの状況。 「お前もそろそろ結婚を考えてもいい頃だろう。丁度お前に交際の申込みが来ている」  お父様に呼び出された私は、内容の見当がついていた。  私が前世の記憶を取り戻す前から婚約者候補を紹介されまくり「一度くらい会ってから決めなさい」とお父様に言われ仕方なく一人の方と会って以降は全て拒否。  お父様は執拗く紹介してきたけど、拒絶しまくったかいがあったのかピタリとおさまった。  なのに、二十を迎えた私に婚約通り越して結婚させようとする動きがあると、私の専属次女であるエレから聞いていたから呼び出しを受けてすぐにピンときた。  前世なら独身の人だって多くいたけど、この世界での貴族はそれが許されないことは知っている。  だからといって、今より数歳年をとっていた前世で恋人すらいなかった私が結婚なんて想像すらできない。
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