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第4話
「うん、そうだよ。やっと、謎を解いてくれたね。頑張って作った甲斐があったよ」
「え……?」
さも自分が考えましたと言わんばかりの雪奈に、僕は目を瞬かせる。
そんな僕を見て、雪奈はにこにこと微笑んでいる。
「え? え? ちょっと待って……」
ふと、頭にある可能性がよぎった。
いや、でも。まさか、そんな。激しく動揺しながらも、僕は彼女に尋ねる。
「えーと……つまり、どういうこと?」
「だから、そのままの意味だよ。私がこの問題を作ったの」
「…………」
雪奈の返答に、思考が停止する。……が、すぐに我に返った。
自分の推測が間違っていなければ、彼女の正体は──
「……もしかして、奈央なのか?」
おずおずと尋ねると、雪奈は満面の笑みを浮かべた。
「そうだよ。ようやく気づいてくれたね。私はずっと、あなたの隣にいたんだよ」
「えええええぇぇぇぇ!?」
素っ頓狂な声を上げてしまい、僕は慌てて咳払いをする。それから、彼女の発言について改めて尋ねた。
「……つまり、生まれ変わったってことだよね?」
もしそれが真実ならば、こんなに嬉しいことはない。
けれど、こんな夢みたいなことが現実で起きるのかと言われたらちょっと首を傾げてしまう。
「うん。気づいたら別人に生まれ変わってた」
僕の質問に対して、雪奈は頷きながら答えた。
「す、凄いな……本当にそんなことがあるのか……いや、でも……」
雪奈の話を、僕はまだ信じられずにいた。
そんな僕の気持ちを察したのか、雪奈は「奈央」にしか知り得ないことを次々と話し始めた。
家族のこと、当時好きだった映画、愛読していた本など。そのどれもが一致していたのである。勿論、僕は今までそれらを雪奈に話したことはない。
話を一通り聞き終わった僕は、彼女の話を信じざるを得なくなった。
「最初は何とか瑛士くんに『あの事故はあなたのせいじゃないよ』ってことを伝えたくて、苦戦していたんだよね。だから、傍から見ればポルターガイスト現象を起こしているように見えちゃったのかも」
雪奈はそう言いながら苦笑する。
なるほど。あの現象はそれを伝えようとしてやっていたことだったのか。
正直、あの光景は今思い出しても衝撃的だ。だが、実際は僕を気遣って奔走していただけだったのだ。そんな想いを知る由もなかった当時の自分を呪いたくなる。
「そのうち、文字を書けることに気づいてね。メモに残そうと思ったの。でも、普通に書いたら面白くないかなと思って謎解きっぽくしてみたんだけど……」
「えぇ!? そこは普通に書き残そうよ!」
突っ込みを入れると、雪奈はバツが悪そうな顔をした。
「いやぁ……ごめん、ごめん。当時、ミステリー小説にはまっていたからさ。つい、やりたくなっちゃって」
彼女の遊び心のせいでずっと悶々としていたのかと気づいた僕は、小さく嘆息した。
「やっぱり、君には敵わないな……自由奔放すぎるというか」
「それほどでも!」
「いや、褒めてないから……」
「まあ、とにかくさ。何とかして瑛士くんに謎を解かせようと粘ってたんだけど、そうこうしている内にお迎えが来ちゃって。それで、気づいたら別人に生まれ変わってたってわけ」
「なるほどね。僕に答えを教える前に昇天しちゃったわけか」
「そんな感じ。──でも、またこうして巡り会えたんだから結果オーライだよね」
雪奈はそう言うと、ウインクをしてみせた。
「とりあえず……事故に遭ったのは瑛士くんのせいじゃないから。私も、サプライズしたかったとはいえ疑われるような行動を取っちゃったわけだし。改めて、ごめんなさい」
「いや、雪奈は悪くないよ! こちらこそ、疑ってしまって本当にごめん」
僕たちは互いに謝り合うと、可笑しくなって笑った。
「これからもよろしくね、雪奈」
「こちらこそ、よろしくね。瑛士くん」
そんな会話をしながら、僕たちは店を出る。そして、手を繋ぎながら街灯が照らす帰り道をゆっくりと歩いた。
真っ白な雪が、はらはらと宙を舞っている。雪奈は天を仰ぐと、感慨深そうに呟いた。
「こんな日が来るなんて、思ってもみなかったなぁ」
「うん、そうだね」
静かに相槌を打つと、彼女と同じように夜空を見上げる。
僕たちが再会したのは、果たして偶然なのだろうか。それとも、運命なのだろうか。
僕はそれを知る由もないが、こうして二人で過ごせる時間がいつまでも続けば良いのにと強く願ったのだった。
これは余談だが……後日、雪奈から聞いた話によると、彼女が生まれた日は雪が降っていたらしい。だから、「雪奈」という名前になったのだとか。
その話を聞いて以来、僕は「雪は神様からの贈り物なのかもしれない」と考えるようになった。
──何故なら、「最愛の恋人との再会」という最高のプレゼントを貰ったからだ。
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