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第2話
「もし良かったら、話聞くよ? 私で良ければ、だけど……」
僕は驚いた。元々雪奈は聞き上手ではあるけれど、自ら進んで昔の恋人のことで相談に乗ると言い出すなんて思わなかったからだ。
僕は少し悩んだが、せっかくの厚意を無下にするのも悪いと思い「じゃあ」と口を開いた。
それから、僕はぽつりぽつりと話し始めた。喧嘩になった経緯や事故の詳細など、自分が覚えている限りのことを雪奈に話した。
彼女は時折相槌を打ちながら、じっと僕の話に耳を傾けていた。そして、一通り話し終えると一言だけ呟いた。
「……そっか」
その呟きが何を意味しているのかは分からなかった。けれど、僕はそれ以上訊くのはやめておいた。
「あとさ……これは、今まで誰にも言ったことがないんだけど……」
僕がそこまで言うと、雪奈は背筋を伸ばして真剣に耳を傾けてくれた。そんな健気な彼女に心打たれつつ僕は話を続けた。
「実は、奈央が亡くなった後──一週間くらい経った頃からだったかな。部屋で怪奇現象が起こるようになったんだ。いわゆる、ポルターガイストってやつだと思うんだけど。最初は気のせいだと思ってたんだけど、日に日にその頻度が高くなってきてさ」
そう言うと、僕はぬるくなってしまったカフェオレを一口飲む。
雪奈はそんな僕を静かに見据えながら尋ねてきた。
「それって、つまり……奈央さんの仕業ってこと?」
「……わからない」
雪奈の質問に対して、僕は首を横に振る。
「でも、その可能性が高いと思う。きっと、彼女は僕を恨んでいるんだよ」
そう答えると同時に、僕は自分が涙を流していることに気がついた。
そんな僕を見て、彼女は「大丈夫?」と言いながらハンカチを差し出してくれた。
「……ごめん」
僕は謝ると、再び話を続ける。
「恨まれても仕方がないことはわかっているけど、やっぱり辛いんだ。あの時、自分があんなことを言わなければ……と思うと、苦しくて仕方ないんだ」
「うーん……死に別れちゃったからそう思うのかもしれないけどさ。きっと、奈央さんは瑛士くんのことを恨んでなんていないよ。むしろ、逆なんじゃないかな? だから、大丈夫だよ」
彼女は優しい声音でそう言ってくれた。その言葉が胸にじんと染み渡り、僕の不安を和らげる。
本当に不思議だ。何故、彼女の言葉はこんなにも心が温かくなるのだろう。
「そうならいいんだけど……ただ、ちょっと気になることがあってね」
「気になること?」
「多分、幽霊になった奈央が書いたと思うんだけど……ある日を境に、謎のメモが置かれるようになったんだよ」
「謎のメモって、どんな?」
雪奈にそう尋ねられたが、僕は躊躇ってしまう。
あのメモのことを思い出そうとするだけで気が滅入ってしまうからだ。
けれど、そんな気持ちを飲み込んでメモの内容を口にしていく。
「ぱっと見た感じ、何かの暗号みたいだったよ。『たのせ ないい あなじゃ』って書いてあった。けど、いくら考えてもわからなくてさ」
「なるほどね。何かヒントはなかったの?」
「いや、それが全くわからなくてね」
僕がそう言うと、雪奈は少し考えるような仕草をみせつつも口を開いた。
「謎解きをさせることが目的なのだとしたら、何か規則性があるかもしれないね。それを見つけることができれば、わかるかも」
「規則性かぁ……そう言われてもなぁ」
雪奈の言う通り、確かに何か規則性があるのかもしれない。
でも、当時の僕はその法則を見つけることができなかった。もし答えがわかっていたら、何か変わっていたのだろうか?
あれこれ考え込んでいた僕に、雪奈はハッと何かに気づいた様子で言った。
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