月明かりの下で(出会い)

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月明かりの下で(出会い)

 優一は母と二人で旅行に来ていた。そして、夜になり旅館の外にある野原で涼んでいた。そこに、一人の女性がチワワを連れて散歩に来たのだ。 「ルリどこにいくの駄目よ。そっちの方には人がいるから。」 「ああ、チワワがきた。」 「よしよし。」 「ごめんなさい。」  チワワは女性の手から離れたようで優一のところに来た。そして、女性が謝ると優一は優しく答えた。 「迷い込んできたのかな。」 「ルリ駄目よ。」 「大丈夫だよ。可愛いね、よしよし、君が飼い主かな。」 「はい。」 「僕が貰っていい。」  優一はわざと女性をからかってみた (延命治療をされますか?長く苦しんで自宅に帰れないかもしれませんが) 「ごめんなさい、それは出来ません」 「そうだよね。冗談だよ。よかったら隣に座らない。涼しいよ。風があたって、前に行くと見晴らしがよくて下の街並みがみえるんだ」  優一は女性と一緒に夜景を見たくて誘ったのだ。しかし、女性はためらった。心配する女性を優一はきちんと説明して安心させると、再度、からかってみた。女性は恥ずかしそうだった。恥ずかしがる女性にこう告げた。 「僕が僕が変わった人に見えるのかな」 「いえ、そのようなことはないです」 「それとも僕の隣に座りたくないの」 「いえ、違います」  そして、二人は一緒に座ることになった。話しは続いていった。 「涼しいよね」 「はい、あれ、ルリ、ルリがいない」  女性が不安がっているのを優一は安心するように伝えた。 「大丈夫だよ。飼い主のところに帰ってくるから。僕と君を二人にさせてくれたのかもね」 「いえ」  女性は大人しくどうやら一人っ子のようだ。優一もそうであったので、共感できるところがあったのかもしれない。 「君はもしかして一人っ子?」 「はい」 「僕も一人っ子なんだ同じだね。僕は母子家庭で育ったのだけど父親が飲んだくれでさ。僕が中学校2年の時に死んだよ。母さんが一人で育ててくれたんだ。母さんには感謝しているよ。だいぶ苦労したと思う」 そう言うと、女性もいろいろ事情があるようで話してきた。 「私の父は厳格で、しつけが厳しかったです。ただ、父は私に甘くて優しい面もありましたが。いちばん悲しかったのは母からはあまり愛情を感じずに育ちました」 二人は互いに共感し合ったのだった。 「愛情が欲しくて、今は一人でもいいので誰かから愛されたいです。さびしいです。寂しくてたまりません。私は瀬波加奈と申します。」 「ああ、僕は村田優一、よろしくね。」 「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」  お互いに気が合うのかさらに会話が弾んだ。 (頭がボーとして前がよく見えないの) 「ぼくは社会人だけど加奈さんは。」 「学生です。」 「どこの大学?」 「東京大学です。」 「すごいね。」 「いえ、大したことはないです。」 「でも、すごいな。高校しか卒業していない僕の隣にすわってもいいのかな。」 高校までの卒業だった優一はびっくりしたのだった。 「とんでもないです。私は学歴ではないと思っています。」 「そうだね。でも僕は高校しか卒業していないから、そういうセリフはいえないんだよね。」  あまりにも境遇が違って優一はびっくりしていた。なんとなく気まずい雰囲気を変えようとした。  他愛無い話が続いた、夜は静かだった。二人の世界はまだまだ続きそうだった。すると、また、チワワがいなくなった。 「あ、またあっちに行ったよ。ちょっと待ってて捕まえてくるから。」 「はい」 「走っていくから早いな。見失ってしまった。ここに野草があるよ。色はわからないけど月明かりでほんのり照らしていて、この色はピンクかな。ほら、加奈さん、これプレゼント。」 「いいのですか。」 「もちろん、月明かりの下で見ると、やはりピンクだったね。」 「はい、ありがとうございます。うれしいです。」  優一はもっと親しくなれるためにある手段をとった。そして、実行に移した。なんと、優一は初めて会ったばかりの加奈の肩に手を回した。恥ずかしがる加奈。 (でも、もう痛くないよ) 「ほら、恋人になった。嫌かな?」 「今は一人でもいいので誰かから愛されたい 。そう言ったよね。」 「はい」  加奈も本当に寂しかったのかもしれなかった。 「しばらくこうしてていい。」 「はい……」 「ほら、星がきれいだよ。月が君を照らしている。僕は明日帰る。」 「私も明日帰ります。」 「同じだね。じゃあ、そろそろ帰るね。」 「はい。ありがとうございました。」  優一は積極的に加奈にアプローチしていたのだった。 「今日は僕の恋人かな?そうだよね。」 「はい……」 「じゃあね。」 (お母さん、ほら、岩場のそばに、小さな綺麗な二つの花に蝶が一匹とまっているよ)  微笑ましい二人に月もやきもちをやいていたかもしれない。
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