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貧しさの中の幸せ
優一は昨夜の出来事に思いをふけ、幸せな気持になっていた。
昨夜は楽しかった。またいつか会えるといいな。
「母さん、バス乗り場はあっちだよ」
あれ、加奈さんだ。帰るところかな?こっちに向かってくる。よし手を振ろう。あ、右に曲がった。どうするかな?母さんがいるしな……仕方ないな。
「母さん今回の旅行はどうだった?」
「ゆっくりできて良かったよ。優一はどう?」
「う~ん僕はいいことがあったよ」
「なにがあったの?」
「うん、秘密かな」
「わかった。素敵な女の子と知り合ったのでしょ?」
「え、どうしてわかったの?」
「優一の顔を見ればすぐわかるよ。ニヤニヤしてたし」
「ばれたか。昨日ね、とても上品できれいな女性と知り合ったんだ」
「それは良かったね。ところで今度はいつ会うの?」
「あ、連絡先聞いていなかった……」
「あらあら、お前も肝心なところで、失敗をするね」
「うん、そうなんだ。ほら着いたよ。遠かったね」
「そうね」
「昼前には着いたけど、たまには僕が昼食をおごるよ」
「本当かい?じゃあ、言葉に甘えるよ」
「母さんも年をとってからの、仕事は大変だろう」
「そうだね、でも体が慣れたからね」
「そういえば、母さん。ここの、きつねうどんが美味しいんだ」
「優一、お母さんの家が貧乏で、高校までしか行かせてあげられなかったね
ごめんね……」
「いや、母さんは一生懸命育ててくれて、今の僕はいるんだ。高卒だけど
みんな良くしてくれるよ。世の中、学歴社会かもしれないけど、僕はそう思っていない。僕は母さんから生まれてきて幸せだよ」
優一・・・
うどん屋に到着した。
「きつねうどんを2つお願いします。あ、すみません。きつねうどんが一つと
わかめうどんを一つにしてください」
「母さん、きつねうどんを食べて、僕はわかめうどんを食べるよ」
「きつねうどんが美味しいと言ってたじゃない?」
「今日はなんとなくだけど、わかめうどんが食べたくてね、ほら、いつもきつねうどんを食べてるから、たまにはね違うものをと思って」
「そうかい」
「ああ、わかめうどんがきたよ。どうしたの先に食べて?僕にはもうすぐ、きつねうどんがくるから、いっしょに食べよう」
「そうだね」
「母さんきたよ。じゃあ、いただきます。美味しいよ、母さん」
「美味しいよ。優一は?」
「うん、美味しい。母さん。ほら、わかめを半分入れてあげるよ」
「あら、うれしいよ」
「ごめんな僕がもっと給料を稼げたらいけどね……美味しかったかな?」
「ありがとう。美味しかったよ」
「母さん、父さんが元気だった頃、海によく連れていってくれたよね。いつも、おんぶしてくれて、うれしかった。たまに、あのころを思い出してさ。あの頃の父さんは優しかったね……」
「そうね……」
「その思い出の海にいってくるよ」
「優一。疲れないかい?」
「大丈夫だよ」
「着いたけど、もう夕方か、ちょうど6時、夕暮れの海がきれいだな。あれ、遠くに女性の人かな?こっちに歩いてくる」
一方、加奈は父親と話をしていた。
「お父様、昨日はありがとうございました」
「山田シェフも連れて行ったからな。フランス料理と中華とのミックスだよ。これがまずいはずがない」
「でも、私は家族で過ごしたかったです……」
「また、今度な、金さえだせばあいつも来るよ」
「嫌です。お父さんのそういうところが嫌いなんです。お父様はお母様に愛情はないのですか」
「ないな」
「ひどい、お父様」
「一生懸命育てて、東京大学にも行かせてあげたじゃないか」
「あれはお父様のお金の力で入ったのでしょ?」
「そうだよ。もう就職先も決まっているぞ、あの誰でも知っている、一流の中の一流のセレナーだよ。それに、結婚相手もな、あ、いや……」
「まさか、お父様?」
「今、言ったのはそうしたいなという事だ……」
「それだけはやめてください」
「ああ、わかった……そういう事にしとくよ」
「やめてください
それだけは本当にやめてください」
「わかった、わかった。そこまではしないから……」
「お父様を信じていますから」
加奈はいてもたってもいられなかった。
「下村さん、運転手を手配していただけないですか」
「わかりました、お嬢様、どちらに行けばよいでしょうか?」
「たまには、海を見てみたいです」
「かしこまりました」
加奈は昼食時間を迎えていた。
「お嬢様、そろそろお昼ですね。レストランはどこにしましょうか?雑誌で探してみます」
「いえ、あそこの、うどん屋さんに行きましょう」
「小さいですし、美味しいでしょうか?建物も古いですよ」
「かまいません」
「かしこまりました」
「宮田さんも一緒に食べましょう」
「いえ、私は運転手ですから」
「一緒に食べたいのです」
「よろしいのでしょうか。こんな運転手の私と」
「はい」
加奈はうどん屋の店主に尋ねた。
「一番安いものは何ですか」
「わかめうどんだね。398円だよ」
「じゃあ、それをお願いできませんか?」
「わかりました」
「お嬢様、きっとまずいですよ」
「いえ、そのような事はありません」
そして、加奈は運転手の宮田と一緒に食事をした。
「そろそろ行きましょうか」
「はい」
「もう少しですね、海が見えてきましたね」
「お嬢様、着きました。何時くらいにお迎えすればよろしいでしょうか?」
「宮田さん、7時にここに着くようにお願いできませんでしょうか」
「わかりました。夕方になると、ご主人様も心配なさるでしょうから」
「そうですね……お願いします」
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