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2,光太の回想
僕が六花山に登ったのは小学5年の1月、もうすぐ冬休みが終わるという日だった。
それに加えて、後1週間で誕生日がきて12歳になるので、決行するなら今しかないと、少し切羽詰まった気持ちになっていた。
さらに、級友たちに雪の立花山に登って雪女に会うと公言した手前、今さら思いとどまるわけにはいかなかった。
僕は幼いころから腕白で、入ってはいけないという場所には入って見たくなる天邪鬼な性格でもあった。
もちろん、六花山に行った子供が行方不明になったという話は知っていたし、六花山には絶対行かないようにと耳にタコができるほど言い聞かされていた。
しかし、この5年の間は子供が失踪するという事件もなく、大人たちにも気の緩みができたのか、立花山への入山禁止は比較的語調が弱まっていた。
小学5年の僕たちにとっては、5年前というと現実味が薄まるほどの過去で、立花山の雪女などただの言い伝えのように感じられた。
第一、実際に雪女と会ったという人間はいなかった。
子供が雪女にさらわれたという作り話めいた想像があるだけだった。
大人たちは雪女の祟りを怖れて、山の奥までちゃんと捜索しなかったのだろう。よく探せば遺体が見つかるのではないかと、僕は思った。
夏の夜の肝試しなどなめてかかって率先して参加する僕だったが、過去に11歳の子供が10人も行方不明になったという事実は、僕の心の奥底に隠された怖気を目覚めさせた。
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