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僕の話を聞いた級友たちは皆、それが真実だとすんなり信じた。僕がほら吹きではないことを知っていたし、何より、話に出てきた6本の剣の形の雪の結晶が元の世界に戻った僕の手のひらにあったことが、話の信ぴょう性を高めた。
その雪の結晶は固く凍って、溶ける気配がなかった。
皆恐るおそるそれに触って、「すごい!」とか「きれい」と口々に感嘆の言葉を漏らした。
級友たちは、ヒーローである僕の周りに輪を作るように結束して、秘密を守ってくれた。
僕が立花山へ行って10日ほど経ち、そろそろ級友たちの関心も薄れていった頃、僕はクラスの女子に放課後呼び出された。
それは白河里美という少女で、5年生の夏にドイツから転校してきた。
父親がドイツ人で日本で母親と出会って結婚し里美が生まれたが、5年後にドイツに帰ることになり、母親と里美も同行した。
しかし母親は異国になじめず心を病んだため、娘を連れて日本に帰国した。それが、里美が小学5年の夏のことだ。
しかし数年間をドイツで過ごした里美は日本の学校に溶け込めず。孤立したうえいじめにもあった。
一部の男子と女子が「どこのドイツだ」とからかって里美をドイツと呼んだり、茶色の髪を校則違反とけなしたりした。
僕が正義感から「やめろよ」と注意しても、「橋爪は白河に気がある」とはやしたてられた。
僕自身、果たして正義感だけなのかどうかわからなかった。
里美のエキゾチックな美貌と陰りに、惹かれるものがあった。
里美は僕に、立花山の雪女の話を詳しく聞かせてほしいと頼んだ。
それは別に難しいことではなかったので、放課後の誰もいない教室で向かい合って椅子に座って話をした。
その際、僕の心臓がいつになく高鳴っていたのは、静けさのせいだけではなかった。
話し終わった後里美は、「私も自分の雪の結晶がほしい」と言い出した。
しかしそれには立花山へ行くというリスクを冒さないといけない。
そもそもそれは禁止されているし、体験した僕自身、もう二度と行きたくないと懲りていた。
里美がただ思い付きでそういったのでないことは、彼女の真剣な表情からうかがえた。
僕は焦りを覚え、あそこは本当なら生きて帰れないくらい危険な場所なのだと念を押した。
「うん。わかった」
という彼女の返事に、僕は確認するように里美の口元に目をやり、その時唇の上に小さなホクロがあることを見つけた。
それが彼女の魅力の焦点であるような気がして、僕の記憶にホクロがはっきり刻まれた。
その数日後、白河里美が行方不明になった。
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