1人が本棚に入れています
本棚に追加
3,再会
光太は高校を卒業すると、都会の大学に進学した。大学と都会の生活が新鮮で、一度も帰郷しない年もあった。
そのまま都会で就職し、一人暮らしを満喫し、帰省するのは盆と正月、それに法事の時といった状態が続いていた。
六花山での冒険は封印されたまま記憶の奥に埋もれていたが、それを呼び起こしたのが、秘密を分かち合った小学生の時の級友のメールだった。
去年の秋に届いたメールには、噂によると六花山に行って無事戻った少年がいるらしいという旨が書かれていた。
光太が雪女と出会って以来、六花山へ行った子供も行方不明になった子供も、この20年というもの皆無だった。
それは白河里美の事件があったからで、彼女の失踪は大人子供を問わず、六花山への怖れを深化させた。
六花山の入り口には行方不明になった里美の情報を求める写真入りのポスターが貼られ、「危険・立ち入り禁止」と赤い文字で記されていた。
光太は自分の責任だと思い込み、しばらく思い悩んだ。
そのことも手伝って、光太は故郷の町や立花山のことを、都会に住むことで忘れようとした。
しかし、彼と同じように冬の六花山に登って雪女に会ったという少年に話を聞いてみたいという欲求が、光太を突き動かした。
そして正月に帰省した彼は、その少年に話を聞いた後、20年ぶりに六花山に行ったのだった。
冬の立花山は大人でも立ち入り禁止だが、それを承知の上での行動だった。
山小屋の残骸を見つけた後、雪が激しくなったので彼はもう帰ろうと決心した。
その時、光太は山小屋跡の向こう、雪に覆われて呪縛されていく木々の合間に、動く人影を見た。
雪に紛れた人影は、全身白っぽかった。
光太はその場に釘付けになり、その唇からはある名前が漏れた。
「白河さん……」
雪女に会った少年に話を聞いた光太は、一つ気になる点があり、それが彼が立花山に行くきっかけになった。
それは、雪女の唇の上に小さなホクロがあったということだった。陶器のように白くすべすべした肌のホクロが印象的だったようだ。
「里美さん!」
もう一度、今度は大きな声で呼びかけた。
白い人影がそれに応えて、ゆっくりと近付いてくる気配があった。
その人物の仔細が明らかになっていくとともに、光太は11歳の頃にさかのぼる時の流れに呑み込まれそうになった。
「いけない! 捕まってしまう」
自制心を取り戻した彼は、もう振り返ることもなく立花山から下山していった。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!