二月のこと・続

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二月のこと・続

「ゲーム…だと?」 「そう、これは言ってしまえば…デスゲーム…」 「な、なんて事だ!」 ピリピリとした空気が場を包んだ。まるで互いの一言一言が死に直結するような、そんな空気だった。 そこで僕はゲームのルールを説明した。 ルールはこうだ。 この後行われる試合稽古で先輩と僕の試合を行う。時間は3分、1本取った方の勝ち。負けた方は勝った方にチョコを奢る。実にシンプルである。だから問題はルールじゃなかった。 「…わかった。で、」 先輩が重そうに口を開いた。 「…ブランドは?」 ゴクッ 僕たちは固唾を飲んだ。 「…ごっ、」 「ご、ご?」 「GODIVA」 ?!?!?!っと先輩の顔に書いてあった。 「正気なのか?!」 「ええ、正気です。…怖いんですか?」 「へへっ、笑わせてくれるわ!大体お前が勝ったことなど一度だってあったか?」 そう言われて僕はたじろいだ。それでも、 「それでも、僕は逃げない」 恵ちゃんからのチョコレート隠蔽のために! ーーーーー 「なんか二人とも今日は気合い入ってんね?」 今日審判を務めるのは橋本先輩だ。 「ええ、男の戦いですから、」 「邪魔すんじゃねえぞ?」 「何言ってんのさ?ほら始めるよ?」 僕は先輩をこれでもかと睨んだ。 「はい、はじめ〜」 途端、パシッ!っと言う音がして剣が交わった。なんと言う力!僕は仰け反りそうになるのを堪えて左へと回った。間合いを取って、カシッカシッと剣先で互いを探り始めた。先輩はステップを踏んでいる。いつ詰めてくるのかわからない。僕は最大限に目を凝らす。一瞬籠手が動くのが見えて僕はすぐに応戦の構えをとった。 来るっ! 一瞬のうちに籠手へと剣が飛んでくる。 ガッ!!…パシッ。しまっt… 「ドォオオオオ!!」 籠手から滑らせた剣は気づけば僕の胴体を真っ二つにしようと脇下へと潜り込んでいた。 しかし、 「ッ!!!………ふぅ、」 旗は動かなかった。まだ試合は終わっていない! 勝負はまだおわって…ん!?! パコッ! 「面!」 「よーし」 「へぁ?!」 頭に軽い圧力がかかって、無慈悲にも旗が上がっていた。旗ばかりに気が回っていて先輩の伸びる面への対処が出来なかった。 僕は文字通り面食らってしまったのだ。 「チョッコレート〜チョッコレート〜GODIVAのチョコレート〜…はぁっはっはー!!」 「もううるさいですって…」 僕はため息が止まらなかった。 こうなる事は最初からわかっていた。わかってはいてたがやっぱり腹が立つ。先輩は気づいていないが、そもそもバックの中のチョコのことを先輩が忘れている時点で、僕の勝ちなのだ。だから、まぁ、しょうがない。 「コラテラルダメージ…」 「なんて?」 「なんでもありません…」 ともあれ我々はお店へと向かった。 店頭には若い女性店員が立っていた。 「すみません、おすすめのチョコが欲しいのですが…」 「一番美味しいものをください!」 「ちょ、ここお店ですよ?…すみません、」 バカな先輩を持つ後輩は辛い。 「何言ってんだ、俺は美味しいチョコが食べたいのだ!」 「どのチョコも美味しいですって!、すみません気にしないでください。」 「あのぅ…」 我々が騒がしくしていると、店員はとても申し訳なさそうに声をかけた。 「実はもう売り切れてしまいまして、」 「そ、そうなんですか?では他にいいチョコはありませんか?」 「いえ、そう言うことではなくて…」 「はい?」 「数日前から予想よりもはるかに売り上げが良くて、この店にチョコレートはもう一つも残っていないんです。」 「え?」 先輩の硬直を感じた。 「店の外に看板があったと思うのですが…」 「え?」 私も硬直してしまった。 あまりに先輩がズカズカと行くので気づかなかったが、どうやら店の前の看板に、その事について書かれていたらしい。たまたま店員さんがいたから入れただけで、店側にはご迷惑をかけてしまった。 「す、すみません!先輩、行きますよ」 「…」 「…先輩?」 この時の先輩の顔を僕は決して忘れない。 僕が先輩から面を初めて取れた日のことだから。 先輩は実に面食らった顔をしていた。
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