3人が本棚に入れています
本棚に追加
数日後の朝。
いつものように寝室で目覚めた老婆は、壁に立てかけてある姿見の前で、背筋をシャンと伸ばして……。
「鏡よ、鏡。教えておくれ。地球の人口は、今どれくらいだい?」
無機物であるはずの姿見に対して、優しい声で問いかけていた。
『現在の地球の人口は、80億4963万7957人です』
少年みたいに軽やかな男性の声で、姿見が老婆に答える。
老婆の寝室に置かれているのは普通の姿見ではなく、正真正銘の『魔法の鏡』だったのだ。
「ふむ。それでは、次の質問だ。鏡よ、教えておくれ。この24時間で、新たに生まれてきた人数は……」
机の上に帳面を広げて、鏡の言葉として出てきた数字をメモしながら、老婆は質問を重ねていく。
これが彼女の、毎朝の日課だった。
毎日全く同じ時刻に世界の人口を記録すると同時に、前日のチェックからの24時間以内に生まれてきた数と、死んだ数も鏡に答えさせる。
生まれてきた数から死んだ数をマイナスすれば、それが一日の増加人数になるはず。今日の人口の総数から前日のそれをマイナスしたものと、同じ値になるはず。
ところが、実際には一致しない場合も出てくるわけで……。
例えば今日も、一人分だけ数が合わない。「死んだ」とはカウントされずに、消えた人間が一人いる計算になっていた。
最初のコメントを投稿しよう!