エピローグ

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エピローグ

 「お待たせ!!」  今年流行のあんみつ屋はセルフサービス形式。日曜15時、君川芳子は出来立てのあんみつを持って、席で待っている芽衣達のところまで、軽やかに歩いた。自分も席に着く。桜の咲く季節が巡って来ている。今日は女子会。  「ねえ、今日の杉田さん見た?」  女性たちが耳打ち。国会議員の杉田は議員というより、考え方もキャラも面白くて現在日本女性のアイドル状態。  「トイレットペーパー2セット買ってるところスッパ抜かれて面白かったね」  現在、日本はトイレットペーパーが欠乏していた。メーカーが必要なだけ用意してるのに、デマのせいで国民の買い占めが起こっている。このため、一人につき1セットしか買ってはならないルールにしているスーパー、ドラッグストアが多かった。  しかし、杉田の話は物議になるどころか、笑い話になっていた。  「でも真面目な話もすごくいいよ」  政治談話に花が咲く。  ロットは実体を隠して女子会を見届けた後、同じタイミングで仕事の終業時間を迎えていた圭子の元にむかった。  圭子は仕事はバリバリこなせるようだが、友達は一人もいない。脅せる相手としか、安心して暮らせないからだ。彼女にとって脅しはコミュニケーションで、暴力ではない。  彼女はもう一人に慣れてしまっている様子で、帰り道を歩きながら、楽しそうに「コロッケ、コロッケ」と歌っている。おそらく夕飯はコロッケなのだろう。  圭子は本屋に入り、料理レシピのあるコーナーに向かった。  「あった、揚げ物……」  圭子がレシピ本に手を伸ばした時、ロットはその手をそっとつかみ、20センチスライドさせ、隣の心理学コーナーの本に触れさせた。  圭子は不思議に思ったようだが、その本を棚から抜き取り、手に取った。  「何だろうこれ……、『笑顔になる本』……?」  圭子はレシピ本と、ロットの推した本を両方買って本屋を後にした。ロットは姿を隠したまま、圭子を笑顔で見送る。  日本から女性、子供がいなくなって17年の物語は、ロットが日本男性に見せた幻想。本当に17年経ったわけではない。道夫が介護に8年苦しんだのも幻想。事実ではない。  日本から子供がいなくなったのに、17年後の世界に結婚適齢期の男性がいた理由も幻想だったからだ。  圭子と芽衣はロットの作った幻想に苦しんだが、すぐ夢から覚めた。夢ではなく実際に半身不随にされた芳子は、ロットが回復させた。女性達はもう介護に苦しんではいない。  大原家が要介護者をめぐって、バラバラになったのは本当だ。里香はヒューゼットのカウンセリングを受け、やはり元気になって、まなと魔界で暮らしている。母親に返せるタイミングがあるなら、ロットは返そうと思っている。  介護者の女性を支配していた道夫、公夫、その他の男性達は、幻想のトラウマから心を病んでいた。それでも今現在、介護に追われて苦しんでいる。  彼らが次の犠牲者を出さないよう、ロットが彼らの女性、子供との出会い運をブロックしている。道夫達が対等な大人の男性と交渉出来た時、ブロックが解ける仕掛けになっている。  坂本元首相をはじめとする日本男性の半数は、介護をなすられる17年の悪夢によってボロボロに疲弊していた。  しかし、彼らの犠牲がなかったら、政治が前進することはなかっただろう。 (終わり)
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