夏の終わりのオレンジ

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『絶対に秘密だよ。5人だけの秘密』 9年前の夏の夕方、駅舎の外壁にこっそりと書かれた5つの相合傘。 時効が成立しているとは言え、法律を知らなかった小5の私たちは無邪気に罪を犯していたという訳だ。 「若気の至り…ってやつだね」 そう呟きながら二十歳(はたち)の大学生になった私は、長い夏草を掻き分けて相合傘一つ一つに向けてシャッターを切っていく。 「ちょっと光っちゃったかな?」 携帯の写真フォルダに並ぶ5つの相合傘を確認してみた。 大丈夫、良く撮れている。 藤原康介 志村すず あの日と同じ様な夕焼けと独特な夏のにおい。 『誰から書く?』『ヤバ。大きく書きすぎたかも』『アイツの名前、画数多すぎ』『あ、人通るよ。隠して隠して』『あ、ちょ…インク掠れた』 あの時の会話と笑い声が頭の中で再生されて、鼻の奥がツンとする。 駅前のクリーニング屋もパン屋も本屋ももう既になくなっていて、この古びた駅はもうすぐリニューアルされると張り紙に書いてある。
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