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三 変化
一週間後。原田伸子が小田亮のカウンセリングルームを訪れて社内状況を説明した。
二日前。原田伸子が勤務する会社で、女係長が上司の課長を罵倒した。
「課長のくせにそんな事も知らねえのか?よくそれで課長をやってるよな!」
周囲が一瞬に静まりかえった。
「上からの指示を全て勝手に解釈して、下には嘘八百を並べ立てやがる、てめえの馬鹿さに飽き飽きしてるんだ!
阿呆な新入りを、あたしに面倒見させるんじゃねえよ。課長だなんて威張ってねえで、自分で新人教育すりゃあいいんだ。まあ、上に媚びるばっかの頭じゃ、新入りの教育もできねえのが落ちだろうさ!」
さんざん捲し立てて女係長は黙った。
罵倒の的になった課長は返す言葉も無く苦笑いして聞いていたが、大声で言った。
「お前は首だ!出ていけ!」
「ほほう。決裁権もねえ、おめえがよく言うよ。だったら、あたしも言ってやる!
おめえなんか首だ!とっとと失せろ!」
決裁権の無い者同士の言い争いは事業部長と常務が止めに入るまでしばらく続いたが、今度は事業部長と常務を相手に、女係長の罵声は留まるところを知らなかった。
原田伸子が話し終えると小田亮は話した。
「これで終りではありません。ハラスメントをしていた者たち全員がその罪を明らかにされるでしょう」
「わかりました」
「今後も、注意して観察してください」
「秘密厳守で観察します」
「来週は、どうしますか?」
小田亮は原田伸子に訊いた。
「是非、カウンセリングしてください」
「では、来週のこの時間に来てください」
「よろしくお願いします」
原田伸子は礼を述べてカウンセリングルームを出ていった。
一週間後。原田伸子がカウンセリングルームを訪れて社内の出来事を説明した。
課長を除く上層部の調べで、女係長の社員に対するハラスメントが発覚し、当人は平社員に降格されて左遷され、工場勤務になったが、ここでも上司を徹底的に罵倒した。この女は自宅でも周囲の住民を罵倒し、警察沙汰になり、地域条例違反で告訴された。
上層部は、元女係長が罵倒した課長のこれまでの業務実績を調査し、当人を追及した。その結果、課長の職務不履行と虚偽の報告が発覚し、元女係長とは別件で社員をハラスメントしていた事と、元女係長の取り巻きが特定の新人を狙ってハラスメントしていた事も発覚した。課長は嘘八百を報告して社内のハラスメントを見て見ぬ振りしていたのである。
上層部は課長を工場勤務の平に降格し、ハラスメントの被害者に代わって、ハラスメントを行なった者たちを告訴した。
説明を終えた原田伸子は質問した。
「どうして、加害者が上司をハラスメントしたんでしょうか?」
「自分が社会の中心だと思いこんで自滅したんですよ。これで、ハラスメントの加害者は社会的制裁を受けます」
おそらく、ハラスメントを行なった者たちは社内からも、地域からも、完全に排他されるだろう。これで企業も地域も、少しは、企業内ハラスメントや、地域住民のハラスメント、校内暴力と誹謗中傷のハラスメントなどを正しく把握するだろう・・・・。
「秘密厳守で、加害者がどうして上司をハラスメントしたか教えてもらえませんか?」
「おそらく、自分が全ての中心だ、との自己主張をしたかったんでしょうね・・・」
「ありがとうございました。また、カウンセリングを受けに来すね!」
「はい、お待ちしてます」
原田伸子は笑顔で帰っていった。
「うまくいったな」
別室から古田和志が出てきた。
「また、頼むぞ」
「わかった」
古田和志は笑っている。
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