こけし

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家庭裁判所での審理の中で、私は母のこけし作りの真相を知ることとなる。 母はSNSで日記を書いており、こけしの写真も上げていたとのこと。 そんなこと、私はまったく知らなかった。 日記には次のように書かれていた。 ────────── 娘には今までつらい思いばかりさせてしまって、私は母親失格だと思っています。 嫌なことがあって、娘に八つ当たりをしたことも何度もありました。 ある晩、眠っている娘の顔をまじまじと見てみました。 顔を合わせるとつい、きついことを言ってしまうのですが、寝ている娘はなんだかかわいいと思いました。 そう気づいたときから、私は寝ている娘の顔を見に行くのが毎晩の楽しみになりました。 自分が産んだ娘が、今、こうしてすやすやと眠っている。 なんだか不思議な気がしてきました。 娘に「消えろ!」と何度も言ってきました。 けれど、本当に娘が消えてしまったら、と考えてみると、私はなんてひどいことを言ってきたのか、この歳になってやっと気づきました。 娘に優しくしたい。 けれど、なかなか自分の心に正直になれませんでした。 言葉ではつい、冷たいことを言ってしまうのです。 そんな自分に悩んでいたある日、「こけし」について書かれた文章を偶然、目にしました。それは、 「こけしは子供の健やかな成長を願って贈るもの」 という一文でした。 小さい頃、お人形も買ってあげなかった私。 なんだか申し訳なく思えてきました。 口ではうまくいえない私ですが、物を作って贈ることならできるかも。 そう思って、こけしを作ってみることにしました。 これで許してほしいなんて、都合のいいことは言えませんよね。 これからは心を入れ替えて、我が子を愛し、大切に育てていきたいと思います。 ────────── SNSには、製作途中のこけしの写真が何枚も上がっていた。 最終日には、次のコメントが残されていた。 ────────── ついにこけしが完成しました。 我ながらよくできたと思っています。 娘の顔そっくりにできました。 このこけしは娘の誕生日にプレゼントしようと思います。 ────────── これが、生前の母の最期の言葉となった。 私は女子少年院へ送致された。
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