こけし

1/13
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
お盆になると里帰りしたくなるのは、やはり私が日本人だからなのか。 そのような帰巣本能が刷り込まれているのだろうか。 八月になり、私は実家に向かう。 人とすれ違うときは、ついつい自分の頬を手で隠してしまう。 大きな(あざ)を隠すためだ。 昔に比べれば、痣は目立たなくなっているというのに…… 一度ついた習慣はなかなか消えないもの。 学生時代、本当はポニーテールやツインテールなどの髪型にしたかった。 けれども、私はいつも下ろした髪型をしていた。 痣を髪で隠すためだ。 そんなことを思い出しながら実家に向かう。 お盆に里帰りするなんて当たり前のこと、と思う人もいるかも知れない。 しかし、私の過去を知っている者からすれば、こうして律儀に里帰りしている姿など、おそらくは想像できないだろう。 私は社会のはみ出し者だった。 若い頃は一日も早く家を出たいと思っていた。 空を飛ぶ鳥のように、私は自由になりたかった。 この家に生まれてきたことを呪っていた。 あれこれ考えているうちに実家が見えてきた。 見ればやはり思い出してしまう、子供の頃のことを。 周りには誰もいないのに、また頬を押さえてしまった。 私の体は吸い寄せられるように実家へと向かう。 なんでこんな家に…… 思いと正反対の行動をしている自分に苦笑した。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!