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尾張の終わり
美怜達が不時着したのは1560(永禄3)年の尾張国だった。織田信長が統治するこの国は、駿河国の今川義元から狙われていた。
義元は「東海一の弓取り」と異名を持つ戦国大名で、尾張国を奪う為に以前から信長の家臣達に寝返り工作を仕掛けていた。
この寝返り工作によって沓掛城・鳴海城・大高城が織田軍から今川軍の城に変わっていた。これに対して信長も大高城を奪還する為に、丸根・鷲津砦を築いて今川軍とにらみ合った。
すると大高城から「兵糧が不足している」と言う報せが義元に届いた。そして義元は自ら4万の大軍を率いて駿河国を出発し、尾張国へと向かったのである。
信長が拠点としていた清洲城に「今川軍4万が接近中!」との報せが入り、重臣達が集まって緊急会議が開かれた。ところが当主の信長はまったくヤル気が無い状態でアクビを連発した上、少し雑談をしただけで「俺はもう寝るぞ」と会議を切り上げてしまった。それを見て「尾張はもう終わりだ」と嘆く家老達。
「今川軍が攻めて来るぞ」と言う噂はあっと言う間に尾張国に広まった。当時は合戦がある度に周辺の町や村が略奪されたので、人々は戦々恐々としていた。そしてこの噂を聞き付けた前田利家は信長の家臣に復帰するチャンス到来と喜んで、尾張国の国境の桶狭間まで駆け付けて来たのだった。
「槍の又左の腕が鳴るぜ!」
何だか嬉しそうな利家。
「ちなみに戦う相手は誰なんですか?」
「あ?今川軍だけど」
「それって桶狭間の戦いじゃないか!」
「ねえ、桶狭間の戦いって何?」
「えー、2058年の人達は桶狭間の戦いを知らないのかよ」
「そんな事言っても、アタシ歴史に全然興味無いんだもん」
プーッと膨れっ面になる美怜。
「桶狭間の戦いって言うのは、今川軍4万と織田軍2千が戦った超有名な合戦だよ。この戦いは織田軍が勝ったから、日本三大奇襲の一つだと呼ばれている」
「えー、2千が4万に勝つなんて無理じゃない。どうやって勝ったのよ」
「そんな事僕も知らないよ」
「もうすぐ中嶋砦に着く。信長様達と合流するぞ」
前田利家はそう言うと翔也の背中をバンバン叩いた。
「いや、あの。僕達は近くで待ってますから、終わったら迎えに来てくれないでしょうか」
「おう、そうか。それじゃあお前達は中嶋砦で待ってな」
「有り難う御座います!」
ホッと一安心する翔也。刀なんて持った事が無いのに合戦に参加するのはまっぴら御免だ。
暫くすると、信長率いる織田軍2千が中嶋砦にやって来た。甲冑姿で馬に跨がる信長は強烈なオーラを放っている。
「やっぱりカリスマは存在感が半端無いな」
感嘆する翔也。美怜も流石に信長の存在感が他の人とは違うと解ったのか、
「なんか凄いね、あの人」と翔也に囁いた。
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